第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
南の国を、南と共に見て回る。
それもオレの生まれた特別な日に。
そんな簡単に実現しないはずの出来事は、オレの心をガキみたいに弾ませた。
だってすげー嬉しいんさ、仕方ねぇだろ。
この緩んだ頬は簡単に締まりそうにない。
──ただ、
「……南、すげー顔死んでる」
「…だって……暑い…」
隣に立つ南の顔は、オレとは思いっきり正反対なもんだったけど。
…その気持ちはわかるけどな。
日付が変わって、もう真っ暗な夜道。
街灯で確認できる南の顔は、寝不足と暑さにやられて死んでいた。
かく言うオレも、じんわりと肌に汗を滲ませている。
夜中だってのに、この茹だるような暑さ。
イギリスと気温は然程変わらないようにも思えるけど、格段に日本の暑さの方が参るものだった。
なんせ湿気が凄い。
じとじとした暑さはオレには不慣れなもので、じっとしてるだけでも体力が奪われていきそうな程。
イギリスはもっとこう、カラッと乾いた暑さだったもんな。
湿度が違うだけで、こうも茹だるような暑さになんのか。
日本人ってすげーな…こんな暑さ、オレ一日で夏バテになりそうな気がする。
「…せめて着替えてから来るべきだった…」
オレより暑さに弱い南は割と限界だったようで、だらりと項垂れたまま力なく着ていた白衣を剥ぐ。
科学班って基本仕事は内勤だからな…暑さに不慣れな感じはするけど。
「……駄目だ暑い」
鬱陶しそうに脱いだ白衣を丸めて脇に抱えながら、ぱたぱたと手で顔を仰ぐ。
冷房の効いてる部屋で仕事してるからか、今の南の恰好は七分袖のブラウスに黒ズボンと暑そうなものだった。