第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「二人共、少し下がってて下さい」
状況が掴めず置いてけぼりなまま。
アレンが数歩広間の中央に踏み出して、オレらから距離を取る。
静かに目を瞑るアレンの足元に、淡く光が帯びる。
足元の光が強まれば、ふわりとアレンの真っ白な髪が下から風を受けるように靡いた。
──あ。
あれは…アレンが方舟を扱う時の光だ。
──ポォン
ピアノの鍵盤を叩くような音がして目の前に浮かび上がる、アレンだけが操れる方舟の入口。
縦に細長い、透明な薄い板のようなもの。
方舟の入口は、常に行き先を示す番号が表示されている。
教団本部なら【3】、アジア支部なら【2】。
でもそこに表示されている数字は【1】。
……そういや【1】ってどこだったっけ。
オレ、その数字の入口潜ったことねぇかも。
「帰りはまた同じ場所に繋げますから」
「うん。本当に色々とごめんね、アレン」
「いいえ」
方舟の入口の前で振り返ったアレンが、ふわりと優しく南に向かって笑う。
その目は次にオレを捉えた。
「ラビも、南さんのこと頼みましたよ」
「頼むって何。一体どこに行く気なんさ」
方舟は原則、任務以外で勝手に使っちゃいけねぇことになってる。
だからホクロ二つの監査官がいない時を見計らってたのか。
バレたらめっちゃ怒られそうだもんな。
「それは着いてのお楽しみってことで。行こう、ラビ」
「ってマジでどこ!?」
敢えて黙ってんのか。
再び南に腕を取られて、引っ張られるまま方舟の入口に進む。
にこにこと笑うアレンに見送られて、透明な入口を通過して入り込むゲート内。
一体全体、南はどこに連れていこうとしているのか。
一瞬で空間移動できる方舟で、その予想をする間もなくオレはイギリスとは全く違う別の地へと足を踏み入れていた。