第15章 Ⓡ◆Boy meets Boy!(神田)
「───うん、美味しい!」
「ワインの味なんてわかんのかよ」
「多少はね。そう言うユウだってわかるの?ウイスキーばっかり飲んでたのに」
「アルコール度数ならわかる」
「それはお酒の味がわかるとは言わないよ…」
ちん、と控えめに掠めるワイングラスの縁と縁。
まぁるいグラスの中で揺らめくビロードのように滑らかな深い赤を味わえば、喉を仄かに熱くする。
人目を気にせず寛げる室内で、雪はすっかりリラックスして晩酌を楽しんでいた。
ジェリーが用意してくれた甘さ控えめの生チョコレートがなんともワインの渋みと合う。
甘いものを嫌う神田は一切手を付けず、しかし顔色一つ変えずワインの瓶を空にしていくところは相変わらず。
それでも会話らしい会話はしてくれる。
なんともその時間が心地良くて、雪は始終笑顔を絶やさなかった。
「偶にはいいね、こういうのも。ユウとは組み手したり組み手したり組み手したり、そればっかりだから」
「そこまでしてねぇだろ。お前いっつも他の野郎と組んでんじゃねぇか」
「あれ?何、ヤキモチ?」
「妬いてねぇ」
「あっははーモテる男は辛いねー」
「妬いてねぇつってんだろッ」
「あははははは」
「笑うな酔っ払い!」
どんなに神田が眉尻を吊り上げようとも、ふわりふわりと笑う雪の顔は微酔い。
「まぁまぁ。ユウもいつものその仏頂面を変えればもっとモテるのに。折角の美形が勿体無い」
「お前はその美形とやらをいつもネタにしてんだろうが」
「してないヨ、美形好きダヨ」
「思っクソ信用ならねぇ顔だなオイ」
「まぁまぁまぁ。でも本当に黙ってれば美人なのにね」
空になったグラスに新しく白ワインをとくとくと注ぎながら、神田の傍に腰を下ろす。
肩に掛かる長く癖一つない黒髪をさらりと指先で梳いて、雪は笑った。
「こうして見れば、ユウでもドキドキするのになぁ…」
「…俺でもってなんだ」
「女の子相手限定のドキドキだよ。でも哀しいかな、触れば…」
長い髪先まで流れた指先が、床に付いた神田の手の甲に落ちる。
その瑞々しい肌に触れて。
「思いっきり男なんだよね…ぅぅ」
「凹むなコラ」
骨張った手にがくりと消沈。
顔以外は、神田はどこまでも男らしい体の持ち主だ。