第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「…花火…」
「…そんなに落ち込まないで。今度一緒に花火しよう?」
ほとんどの団員が海で休日を過ごしているからか、教団の広い廊下には人影が全く見当たらない。
いつもは沢山の人で賑わっている廊下も、人気がなく電力も通っていなければ、暗く些か薄気味悪い。
そんなだだっ広い廊下を一人歩くアレンの背には、突っ伏す椛がおぶさっていた。
アレンがなんとか励まそうとするも、自業自得というのが堪えたのか。
椛の顔は晴れなかった。
「ごめんね、アレンくん…私の所為で、アレンくんまで…」
「いいですよ。椛を教団に残していく方が不安になるし。花火はいつでも見られます」
「でも…あの場で見られるものは、あの場限りのものだから…アレンくんと夏の思い出、作りたかったのに…」
そうは言っても、結局悪いのは自分なのだ。
言いながら自分を追い詰めるように、椛は眉を寄せるとへたりとアレンの肩に突っ伏した。
「ごめんアレンくんんん〜っ」
「はは、もう。そんなに謝らなくていいってば。僕は気にしてないから──」
「ほら早く、もう花火が始まるわっ」
「わかってるよ、そう急かさないでくれ。やっとリストの処理が終わったんだから…」
ばたばたと慌ただしい足音にアレンの声が掻き消される。
目を向ければ、今し方世話になっていた医療病棟から出てきた男女が二人。
婦長のように先程まで職務に就いていたのか、仕事着のまま方舟ゲートのある広場へと向かっている。
忙しないがその顔は明るい。
アレンと椛のような間柄であろうことは、自然と感じ取れた。
「こんなギリギリまで仕事だなんて、医療班は大変ですね」
「うん…でも遊びに行けたみたいだから、よかったね……いいなぁ」
「そう落ち込まないで、椛。逆に考えればいいんですよ」
「逆?」
去っていく恋人達を見送りながら、羨む椛とは反対にアレンの声は明るい。
思わず首を傾げれば、アレンはにこりと笑って頷いた。
「誰もいない教団で椛と二人っきり。それって、海で見る花火と同じに特別じゃないですか?」