• テキストサイズ

廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「大丈夫だよ、医務室に行かなくても。ジェリーさんに氷でも貰って冷やしておけば…っ」

「駄目です。もし刺したのが海月じゃなくて、他の毒性の生物だったらどうするんですか。下手したら歩けなくなるんですよ」

「そ、それは、大丈夫かな?自分の体だからなんとなくわかるよ。歩けなくなる程じゃ」

「僕が大丈夫じゃありません」

「っ」



きっぱりとそう言い切られてしまえば、返す言葉がない。
傍をゆらりと浮遊していたティムキャンピーに言付けを頼むと、アレンは皆のいるビーチではなく設置した方舟へと向かった。
その手はしっかりと椛の手を握り締めたまま。



「もう暗くなるのに…キャンプファイヤー…」

「今日できなくたって、またの機会がありますよ」

「花火だってするのに?」

「教団でもできます」

「でも打ち上げ花火はできないよ…」

「そんなに見たいんですか?花火」

「アレンくんとだから、一緒に見たいの」



ぴたりとアレンの足が止まる。
振り返れば、切なげに乞う顔で見つめてくる椛の姿。
その様には、くらりと意志が揺るぎそうになる。
何も彼女に哀しい顔をさせたい訳ではないのだ。



「お願い、アレンくん…」



ぽつり。
泣きそうな声で懇願する椛に、アレンは眉尻を下げた。
くっと奥歯を噛み締めて、握っていた手を引く。



「わっ?」

「駄目です」

「えー!」



だがしかし。
ひょいと椛の体を抱き上げると、足早に方舟へと向かった。



(危ない危ない)



それで椛の怪我が悪化すれば、後悔するのはアレン自身だ。
危うく折れそうになった危機感を胸に、絶望する椛を連れて瞬く間に方舟の入口を潜った。

/ 723ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp