第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「足、どうかしたの?」
「ぅ、ううん」
「見せて」
「でも…」
「椛」
「………」
神田とは正反対に、普段は穏やかな物腰で椛に何かを強制させることなどないアレン。
だからこそ譲らない時は、それだけ確固たる意志が向いている。
その意志を曲げることは難しい。
きゅっと唇を噛み締めると、やがて諦めたように椛は退いていた足を戻した。
赤い夕日はアレンの髪同様、椛の細い足も赤く染めている。
しかしじっとそこに目を逸らせば、異変はすぐに見つかった。
「どうしたんですか、これ」
抱えていた丸太を下ろしたアレンが、その場に屈み込む。
椛の足を揃えればすぐにわかる。
右足だけ、細い足首の側面が歪に腫れている。
中心に向かうにつれて赤みが濃くなっているのは、膿んでいる証拠だ。
「何処で怪我したんですか?森の中?」
「多分…ウォータースライダーの時、じゃないかな…」
「もしかして滑った時にぶつけて──」
「ううんっそれは違うよっアレンくんと遊んでた時は怪我してないっ」
ふるふると首を横に振ると、椛は苦笑混じりに頬を搔いた。
思い当たるのは、飛び込んだ海水の中で一瞬感じた痛み。
「多分、飛び込んだ後。海月にでも刺されたんじゃないかなぁ」
「じゃないかなぁって。凄く腫れてるじゃないですか。なんで早く言わないんですかっ?」
「…そしたら、アレンくんと遊べなくなっちゃうかなって…」
「遊びより自分の体調を優先して下さい!」
「ご、ごめんなさい…」
暗くなる椛の表情に、はっとしたアレンは慌てて口を噤んだ。
大事に思うが故に、声が荒立ってしまった。
駄目だと頭を振り被って、深呼吸を一つ。
「椛、その薪下ろして」
「え?でも、これキャンプファイヤーで使うのに…」
「補充役は他にもいるから、大丈夫だって言ったでしょ。それより医務室に行こう」
「!」
抱えていた木々の束はアレンに奪われ、代わりに手首を握られる。
予感していた言葉を彼の口から聞くと、椛は声もなくふるふると首を横に振った。
言葉はないが、必死の抵抗だ。