第2章 ワインレッドscene1
不意に唇が離れた。
両手を拘束していた手が離れた。
その時、急に明るくなった。
恐る恐る目を開けると、部屋が明るくなっていた。
俺に馬乗りになっている男に目を向けると、泣いていた。
「潤…?」
口を堅く結び、何かを堪えるように泣いていた。
ボロボロと涙が溢れ、俺の胸に落ちてくる。
また雷鳴が聞こえた。
「なん…で?なんで…こんなこと…」
声が掠れた。
喉がカラカラで上手く声を出すことができない。
潤が傍に落ちているバスローブを手にした。
そこから紐を手繰ると、俺の両手を取った。
俺は力が入らず抵抗できなかった。
「ごめん…ごめんね…」
うわ言のように泣きながら、繰り返しつぶやきながら、俺を縛る。
あまりのことにもう力が入らない。
また目をぎゅっと瞑った。
目の端からまた涙が溢れる。
それを唇が拭っていった。
その唇が、また俺の唇に来た。
恐る恐る触れるだけの、臆病なキス。
目を開けると、まだ泣いていた。
「潤…」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
暫く見つめ合った。
泣いている瞳の奥に、燃えるような激しい何かがいた。
そのまま潤は立ち上がり、インターホンに出る。
「はい…はい。開けてください。部屋まで通してください」
カチャと受話器を置く。
「ご飯きたから、取ってくる」
リビングを出て行った。
俺は呆然と床に横たわった。
しばらくするとパッケージをもった潤がリビングに帰ってきた。
それをテーブルに置くと、俺の傍に来て抱き起こした。
髪にキスをすると、俺の肩にバスローブを掛けた。
掛けると、床に溢したものを拭きとっている。
「これ…解いてよ…」
返事はない。
自分で解こうとするが、がっちりと結んであって取れない。
「なあ、なんでこんなことするんだよ」
「飯、食べようか」
そう言うと、テーブルにパッケージを広げ始めた。
「おい!潤!」
今更、大きな怒りの波がきた。
腹の底が煮えくり返るように熱い。
「答えろよ!なんでこんなことすんだよ!」
俺は男だ。
なんでこんなことされなきゃいけない。
しかもずっと一緒に居たヤツに。
なんでこんな強姦紛いなこと…
「なんで…?なんでなんも言わねーの?…答えてくれよ…」
俺の言葉は、虚しく空中に消えていった。