【おそ松さん】マフィア松でスパダリ長兄松に溺愛されるだけ
第1章 お兄ちゃんから卒業
定位置にたどり着けば、そこには人が居た。
見たことのない、二人の男の人。
どちらも、似たような顔つきをしているけど、一人は眉毛がきりっとしてて、もう一人は飄々とした笑顔。
服は、黒いスーツに一人は赤いシャツ、もう一人は青いシャツを着ている。
白虎組では見たことのない人だし、別な組の人だろう。
機嫌良さそうに庭園を眺めてるし、お邪魔しちゃ悪い。
そう思い、私は引き返した。
とりあえず、自室へ帰ろうと離れを目指していた。
その時、目の前から誰かの足音がする。
緊張しながら歩いて行くと、相手はお父さん。
「鈴、起きたか」
「おはよう、お父さん」
「うむ。少し、虎の間へ来てくれ」
「――はい」
虎の間。
それが、さっき幹部の人達がよく使ってた部屋の名前。
白虎組の中でも、お母さんですら入ったことのない、厄介な部屋。
男の人達にとっては憧れの部屋だけど、ヤクザ組織に関われない女としては、入っちゃいけない部屋。
いくらお父さんがお兄ちゃんに組長の座を渡したと言っても、未だにその権力は健在だし、無駄な抵抗は厄介事の火種になる。
長いこと、この世界の近くで生きてきたから、嫌でもわかっちゃうのが辛い。
お父さんは、奥の池が見える場所へ歩いて行った。
あそこは、その場所以外何もない行き止まり。
ってことは、あの男の人達も来るんだ。
ヤクザの娘が虎の間入りで、見知らぬ人も一緒。
嫌でも、何が起こるかわかってしまう……。
あぁ、ついに私も結婚しなきゃいけないのかぁ。
結婚せずに、一生お兄ちゃんの側で、お兄ちゃんの幸せを見守るだけでよかった。
お兄ちゃんには、幼い頃から片思いしてる幼馴染が居る。
私もよく知ってて、私を一番励ましてくれた、お姉さんのような存在。
だから、二人が付き合い始めたって聞いた時は、嬉しかった。
自分のことのように喜んだし、お兄ちゃんに寄り付く女の人は、こっそり裏で手を回して排除した。
だって、お姉ちゃんを泣かせる人は、いくらお兄ちゃんでも許さないから。
だから、このまま二人が結婚して、子供が出来て……、私もそんな幸せを見守るんだって思ってた……。
二人の側に居れば、裏切られることはないから。