第1章 厄介事はお断り
そして、体育館に近づけば近づく程、血まみれのやつも増えてくる。
俺は、そいつ等を避けながら、必死になってハチを探しに体育館の中へ。
数名、俺に助けを求めてきた奴も居た。
でも、そんなことをしてる間にも、ハチが危ない目にあってたら……。
だから、「ごめん」と謝って見捨ててきた。
後ろからついてくるであろう、委員長がどうにかしてくれるって自分自身に言い訳をして。
「ハチ、ハチ!!」
体育館の入り口に来れば、俺らのクラス以外にも、喧嘩っ早い奴らが殴りあってる。
流れ弾とかが来ないように、上手く避けながら体育館の中に入っていく。
いつも、こういう時は真っ先に逃げてる俺だから、辺りに立ち込めるゲロとか血の臭いに慣れてなくて、吐きそうになった。
でも、行かなきゃ。
そして、目の前に広がってたのは予想以上の光景だった。
ハチとつるんでる他クラスの奴が、F6末っ子と黄色いパーカーの奴を捕まえていた。
そして、一方的にハチが相手を殴ってる。
相手は、赤いパーカーを着てるから、F6の誰かだろうけど。
――嘘。
ハチ、こんなのらしくないじゃん。
「ハチ、お前何やってんの?」
俺の知ってた相棒は、こんな事しない。
いつでも真正面から向かって行く、生真面目な奴だった。
馬鹿みたいに純粋で、馬鹿みたいに素直で、どんな悪さされたって笑顔で許す、そんなヒーローみたいに優しいやつ。
「ハチ、止めなよ」
でも、目の前に居る奴は違ってる。
狂った獣のような眼差しで、ただ相手を壊す事に快感を覚えてる。
俺の方を見たハチは、ぎらりとした表情で、血走った目で俺を射抜くように見つめてくる。
――怖い。
俺の知ってるハチじゃない。
「ハチ、俺大丈夫だし、もうその辺で……」
「使い物になんねぇ癖に、出しゃばるな」
「――ハチ?」
壊れていく。
俺が作り上げていたハチが、壊れていく。
孤独の壁をぶち壊してくれた、優しいヒーローが壊れていく。
目の前に居るのは、ヒーローじゃない。
その反対の奴だ。
結局、俺はハチに都合がいい事を押し付けて、本当のことは知らなかった。
こんな、狂った奴好きじゃない、俺の好きなハチじゃない。
「ハチ」
「あ゛?」
俺は、勢い良くハチの股間めがけて蹴りを入れる。
「ハチ、誰が主人かわかってんの?」
嫌い、嫌い。
こんなの、ハチじゃない。
