第1章 厄介事はお断り
俺は、どうする訳でもなくベッドの上に座り、自分自身を抱きしめる。
小さい頃、まだ俺が小学生にも上がらない頃。
泣き虫だった俺の側には誰かが居て、俺が泣きそうになれば必ず抱きしめてくれた。
それが誰なのか……、今になって思い出せないけど、小学生になる前に転校したから、もう顔は覚えていない。
『あいぼー』
こうやって、自分自身を抱きしめれば、幼い頃に俺を抱きしめてくれた相棒が側に居るって錯覚できる。
だから、楽だった。
居ない相手に依存するなんざ、馬鹿げた話さ。
女みたいな容姿だから、いつも虐められてて、友達も出来なくて。
そんな俺をずっと守ってくれてた、相棒。
俺は、幼い頃一緒に居てくれた相棒とハチを重ねてる。
アイツと仲良くなって、相棒って呼んでくれたことをいい事に、勝手にアイツと重ねて、依存してる。
ハチ、ハチ、ハチ。
別なやつばっか見ないで、一回だけでいいから俺のほうも見て。
俺もハチとキスしたいし、抱きしめてほしいし、えっちだってやってみたい。
後どれくらい、可愛くなれば愛してくれる?
後どれくらい、綺麗になれば愛してくれる?
素直に言えばいいんだけど、恥ずかしくて素直には言えない。
そもそも、俺の売りであるクールビューティーでつれない性格を捨てちゃったら、何が残る?
ハチが遠くに行っちゃう気がする。
――それだけは、嫌だ。
俺は、きつくきつく自分自身を抱きしめた。
その時、静かだった部屋にドアのノック音が響き渡る。
「、さん……。で、出てきて、下さい……」
イインチョーの声だ。
嫌になるくらい、声が震えてる。
「――何?」
ドアを開けたら、真っ青な顔のイインチョーと、気まずそうな顔で笑ってるF6顔の奴。
パーカーの色は青だから、俺の下着を覗いた奴とは別物っぽい。
「ハ、ハチさんが……」
頭の中が真っ白になった。
――ハチ、ハチ?
俺は、後ろのやつの言うことも聞かずに走りだす。
俺が、余計なポリシーを捨てなかったから。
いつまでも、うじうじしてたから。
女装なんて、さっさと止めればよかった。
体育館に近くなると、俺のクラスのやつが血まみれで転がされてるのを見て、顔の血の気が引いてくる。
ハチ、ハチ、死んじゃ嫌だよ、ハチ。