第1章 アイスランド・ブルー(遙)
はやく、
はやくはやく、
はやくこいこい、休み時間
海が近いこの町の、とある高校のとある教室。
私は授業もそこそこに、雪がふわりふわりと落ちていく世界を窓越しに見ていた。
間延びしてやる気のないチャイムが長い長い授業の終わりを告げた。
途端わたしは後ろを振り向き、机の上に突っ伏す背中に声をかける。
「ハル」
「…」
「ハールっ」
「…」
起きないし。いつもながら手強い。
しょうがないなあ、と私は肩をすくめ、一向に起きる気配のない彼の耳元で小声で囁く。
「…ハールちゃんっ」
「っ!!」
がたたっ、と木製の机と椅子が派手な音を立てる。
少しして、ハルこと七瀬遙が若干不機嫌そうに顔を上げた。
「ハルちゃんって呼ぶな、公野」
「公野って呼ぶな」
ハルはため息をつきながら頭をかき、諦めたように口を開く。
「…公子」
「へへ、よく呼べましたっ」
「なんで苗字はだめなんだ?」
「前も話したけど、あんまり自分の名字好きじゃないから」
「そんなこと言ってたか?」
「言ったよもう!全然覚えてないんだから…」
「…悪い」
少ししょぼんとするハルをなだめながら、私は話を続ける。
「最近ほんとに寒いよね、雪毎日降ってるし。ハルは寒いの好き?」
「外で水に入れないからあんまり…」
「あーハル水大好きなんだってね、橘くんから聞いた。じゃあこの時期つらい?」
少しの間を挟んで、ゆっくりとハルは口を開く。
「うーん…つらいことはない、かも」
「あら?どうして?」
「今もだけど、」
そう言い、ハルはふと窓の外に目をやる。
「寒い日の澄んだ空気の感じが水の中に似てるから、嫌いじゃない」
「…あ、そ、そっか」
雪の降る景色を眺めるハルの横顔の線の細さ、細いけど華奢ではなく引き締まった体つき、切れ長で涼し気な目に、不覚にも見とれてしまった。
そうして暫くの間、ふたりで黙って銀世界を見ていた。
to be continued…