第4章 報告
シャルラが苦笑するとロビンは素直に頷いて言葉を選んだ。
「えっと、あの……名前はなんていうの?」
「………ハーロート・シャルラ」
「も、もしかして緋色のシャル!?」
「こいつぁ驚いた。嬢ちゃんおれを知ってんのかい」
「当たり前じゃない、知らない人の方が少ないわよ」
「まーね。でもよ、そうとわかったら、おれのこと怖くねぇのか?」
ロビンはきょとんと首を傾げた。
「どうして怖がらなきゃいけないの?」
「どうしてって…」
「だって、あなたさっき私を助けてくれたじゃない。命の恩人を怖がるなんて失礼だわ。それに、賞金首が皆悪い人とも限らないもん」
「……言うねぇ」
あまりに純粋な少女の主張に、シャルラは笑みを浮かべた。
「気に入ったよ嬢ちゃん。名前は?」
「………ニコ・ロビン」
今度はシャルラがきょとんとした。
「…"悪魔の子"か。」
ぼそりと呟かれた言葉に、ロビンは身を竦める。脳裏に、今までに自分を裏切った卑怯な大人たちがよぎっていった。ロビンが目を伏せたのに気付き、シャルラはロビンの頭を撫でた。
「安心しな。おれだって賞金首だし、嬢ちゃんより高額なんだ。海軍呼んだりはしねーよ」
「……ありがとう…」
頭を撫でながらの説得は効いたらしく、ロビンの様子は落ち着いた。
「ねぇ、シャルはやっぱり、人じゃないの?」
ふいにロビンが尋ねた。
「そうだなぁ…人っちゃ人だし、人じゃないっちゃ人じゃない。」
「なにそれ」
答えになってない答えに、ロビンは頬を膨らませた。シャルラは悪戯っ子のような笑みを浮かべて立ち上がる。
「…もう行くの?」
「ああ。あまり長く居ると情がうつっちまう」
ロビンが何か言う前に、シャルラは小舟の底を蹴って高く跳んだ。本来なら小舟は大きく揺れる筈だが、彼が乗った時と同じように微動だにしない。
ロビンが見送ろうと顔を上げると、正面にあった太陽の光を直視してしまった。咄嗟に目を覆って再び空を見上げた時には、シャルラの姿はどこにもなかった。