第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
湖を見てそう言うと、湖は首を傾げながらも笑ってみせる
「当たり前でございます。湖様は、越後の姫君。そちらが心配されなくともすこやかに成長されまする」
「姫君な…なるほど」
兼続のそれに光秀が小さく声を出した
秀吉は、苦虫をつぶしたような表情を浮かべながらも続ける
「一時的にそうだとしても、成長後はその選択は湖にある。越後に残るか、安土に戻るか…だが、今は越後の姫君で構わん…その姫君の成長を我らも側で見守らせてもらう」
「…越後が得られる得はない。断る」
「商談だ。越後の特産、青苧(あおそ:当時、繊維製品に使われた麻の一種)の販路拡大を境で仕掛ける手はずを取ると、信長様より提案がされている」
秀吉が懐から取り出し、謙信に渡したのは信長直筆の書状
はらりと、それを開けば確かにそのように記載がある
(…面白く無いところをついてくる…)
青苧については、謙信自身何度か自国の経済発展を促し動いていた
足下を見られるようなこの提案
(しかもたった半年だけのことだ…それを過ぎれば、無くなる話…だが…)
「何を考えているか知らんが…受け入れてやる。この提案」
(越後の名が知られるのは悪くない)
「此処に記載されている通り、お前達安土の人間を定期的に受け入れるのが条件だな」
「そうだ…なにか、追加でつける条件があれば相談に乗ろう」
謙信が二人を見てそう言えば、秀吉は頷き、光秀はそう返答する
「…宿舎は、兼続の御殿だ。管理も兼続に任せる。何かする場合には、許可を得てもらう。ついでに、ここに滞在する間。俺の暇つぶしにも付き合ってもらおう…」
最後はにやりと愉快そうに口角が上がった謙信に、見ていた佐助と幸村はため息を零した
「もうひとつ、湖はもちろんだが…あれに変な詮索をするのは止めろ」
「あれ…だと?」
秀吉が謙信の視線の先を見れば、そこに居たのは白粉だ
「…謙信…」
白粉もそれに気づき驚きの表情を見せている
「……」「……」
秀吉と光秀は、白粉の方を向くと黙った