第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「お馬さんね!今日から、できる?!」
「構いませんが…そうですね、では。その準備の為にすこし出かけましょうか?」
「じゅんび?」
「直江殿、よろしいでしょうか?」
「さようでございますね。某が見立てたい所は御座いますが、せっかくなので石田殿にお願いいたします」
兼続は、すこし迷ったようだがすぐに、にこりと笑って見せた
「湖様、城下に出かけますが…白粉殿もご一緒にいかがですか?」
「かかさまも?」
ふっと視線を横にずらせば、そこには丸まって休む白粉の姿がある
『わたしはいい。湖、よく頑張った。少し散歩でもして気を休ませろ』
猫の姿の白粉は、顔を湖に向けるとそう言うのだ
「わかった」
座った湖は、さらに状態を低くし首を白粉の方へ出す
そうすれば、白粉はその首に体をすりつけるように寄ってくるのだ
チリリン…
湖の鈴飾りが鳴った
『迷子にならないようにな』
「うん」
そう返事をすると、湖と三成は部屋を出て行った
「…よろしいのですか?」
『いい。少しつづ…子離れしないとな…』
白粉は、小さくそう言うと部屋を出て庭に降りていった
城下に来た三成は、すぐに目的の場所へと湖を連れてくる
そこは、呉服屋だ
主人は「お待ちしておりました」と、愛想良く挨拶をする
「直江様より、伺いご用意しております。奥の間へどうぞ…」
主人に通された先にあったのは、着物と袴だ
「馬に今のお着物では上手く乗れません。袴を用意いたしましょう」
「わぁ…」
目の前にあったのは、着物の数々
だが、以前湖が三歳の頃に見た着物とは異なる
あの時は、豪華な装飾にまぶしさを感じ、重そうな印象を持ったが…
今回は、動きやすそうで軽そうな着物に湖の心も踊る
「湖様、ご希望の色味などはありますか?」
「うん!あのね、このかざりと、おなじいろのきものと、はっぱいろのがいい!」
「桜色、桃色…この当たりの着物ですね。これに似合う緑色の袴をお願いできますか?」
三成は、主人にそう言うと早速そろえられた一式