第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「幸…布団って何のことだ?」
そして、佐助にそう聞かれて、その耳元で湖が信玄に抱きついて寝ている様を話して聞かせれば…
「…湖さん、にーさまは反対です」
と、挙手しきっぱりと言うのだ
「にーさまは、湖の事すぐに横に落とすんだもん!ととさまは、落とさないもん!」
「そういう問題ではありません」
「「……」」
会話を聞いているうちに、謙信と三成は何かを悟ったような表情になる
兼続がそんな二人とみて…
「謙信様、石田殿…?」
呼ばれた二人は目を合わせ、三成はそんな謙信に苦笑して見せた
「ご経験、あるようですね?」
「あれは、幼少期の癖か…何だとは思っていたが…」
「何の話で御座いますか?」
二人の話が見えない兼続は、疑問をぶつけた
「…湖様、寝ぼけるとこう…上に乗ってこられ、そのまま暖を取るように寝てしまわれる事がたまに…」
「あったな。酒で酔ってる時やら、寝起きやら。特に支障も無いからほおっておいたが…なるほどな」
「はぁ?」と幸村の眉が動く
「それって…こいつ、大人になってもそんな事してたって事か?」
「ご本人は覚えていないと思いますよ。寝ているときなので」
幸村の問いに三成が苦笑して答える
佐助と信玄のため息が重なり、幸村は頬を染め「恥ずかしい奴っ」と横を向く
そして兼続は真っ赤になり口をぱくぱくと開けるだけだった
「かねつぐ、こい(鯉)みたーい」
面白そうに笑う湖の声が響いた
それから五日後のこと…
湖は、祈るように両手を組んで返事を待っていた
渡された紙を見終わった三成が、それらを兼続に手渡す
兼続はそれらを見て…
「湖様、頑張れましたな!」
と、にかっと笑ってみせる
「っ、ごうかく?!」
「はい。文句なしですよ、湖様」
「っ~~、やったぁ!」
三成の返事を聞くと、湖は立ち上がってその場で飛び跳ねる
その賑やかな声は、部屋の外まで聞こえ、近くにいた女中達が笑っている