第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
(詰め寄る…か…詰め寄りたくもなる。湖が一体何をしているのか…どうして俺の体が不調にならないのか…何をしてるんだ、湖)
(桜さまと、おやくそくしたもん…っないしょにするって、ないしょにしないと、ととさまのもやもや、なくならなくなる…それは、やだもん…っ)
佐助にしがみついたままの湖は、もう信玄を見ようとはしなかった
信玄は、深く息を着くと…
(…時期をみてゆっくり聞き出すか…)
額に手を当てた
そして、柔らかい口調で名前を呼ぶ
「…湖」
「……」
「悪かった…勘違いだ」
佐助にしがみつく腕の力がすこし弱まる
「湖、なんか…あれだ。ほら、これやるから機嫌直せ」
幸はしゃらりと音を立てて、金平糖の入った袋を懐から取り出す
「ほら。湖さん」
佐助は、しがみつく湖の背中を再度叩く
が、返答しないのだ
「湖さん…あんまり黙りで居れば、信玄様達行ってしまうよ?」
「っ…」
ぴくっと反応する湖
信玄と幸村は顔を合わせて頷くと
「なら、俺たちは部屋に戻る。湖、許してくれたら来てくれ」
と、そう言い絹音を立て立ち上がってしまうのだ
(っ、)
その音に気づいた湖は、ほぼ無意識に身を起こし信玄の着物の裾を掴んだ
「…あ」
佐助の上げた声に、自分の行動に気づいた湖は慌ててまた佐助の腰にしがみつく
信玄は、フッと笑うと…
「…おいで」
とだけ言うのだ
手を伸ばされているのは解る
湖は、おずおずと信玄の方へ顔を向けると佐助から手を離し、信玄の手に手を添えた
信玄は、小さな手が添えられるとふわりとその身を持ち上げる
自分より上に上がった湖の目には、まだ涙がこぼれて続けているのだ
困ったように眉を下げ
「悪かった、湖を怒ったわけではないんだ…どうしたら、その涙を止められるだろうか…」
ぽたぽたと、信玄の腕やら肩やらに落ちてくる涙
湖は、目元をごしごしとこすり始める
「あ、こら。擦るな、腫れるぞ」
幸村は、その片手首を軽く押さえると「ほらよ」と罰悪そうに小さな手に金平糖の袋を乗せた
「…湖、わるいことしてないもん…」