第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「そうです。童ではなく、これから湖様は女子になるのです。異性に裸を見せるのはよろしくありません」
「おなごになると、どうして良くないの?」
兼続がこほんっと咳払いをして上から見下ろすように湖に言う
「いいですか…湖様はもうあと数ヶ月で、白粉様のような体つきになりまする。そんな体で肌を見せていれば、襲わ…いえ、悪者に攫われまするよ!」
「かかさまみたいな、からだ?さらわれる?」
頭に浮かぶのは、一緒に風呂に入る白粉の姿
自分とは違い、胸や尻や丸みを帯び柔らかく気持ちのいい肌だ
「湖も、かかさまみたいに、きもちいいはだになるの?!」
「き、きもちいい…?!」
言い聞かせた兼続が真っ赤になって腰を引く
「わぁ…そうなんだぁ…でも、どうしてそうなると、わるいひとにさらわれるの?」
「そうですね…攫って、閉じ込めて、誰の目にも晒さず、自分だけを見るように…綺麗な湖様を宝物のように仕舞っておきたくなるから…でしょうか」
にこやかな三成の言う言葉を、ワンテンポ遅れて想像した湖は顔色を変えていく
「湖は…たからばこに、いれられちゃうの…?」
「そうですね、嬉しいですか?」
「っ、うれしくない!湖は、ここがいいもん!かかさまと、ととさまと、にーさまと…ここがいいもん」
半べそをかき始めた湖に、困ったような笑みを浮かべる三成
「そうですね…でしたら、誰かの前で裸になうような行動はお慎みください」
「にーさまでも?」
「そうです。どこで、誰が見ているのかわかりませんから」
今にもこぼれ落ちそうな涙を親指で優しくすくってやる三成に、湖は大きく頷く
「わかった。きをつける」
「はい。わかっていただけて、よかったです」
佐助の部屋に向かっていく湖と別れた三成と兼続
兼続はほっと息をつき…
「石田殿、湖様の扱いに手慣れていらっしゃいますね。もしや、お子様が側にいらっしゃるのですか?」
「いいえ。こどもの扱い方は存じませんよ」
「ですが…」と兼続が言えば
「こどもの扱い方は、存じませんが…湖様の事は、ある程度…存じているつもりです」
と、そう微笑むのだった