第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
北条の残党との話を終え、顕如の元に戻ってきたのは同胞(はらから)だ
「顕如様」
「織田と上杉武田の協定理由を確認しに行く、連絡を待て」
「っは。お気をつけて」
「解っている。お前達は、しばし動くな」
「あの者達はどうされます?」
「…頭に血の上った無様な奴らは邪魔になるだけだ…適当に追い返せ」
翌朝の事だ
「かかさま、お散歩いこう」
「どうした?」
この日、湖の目は陽が昇る前に開いた
昨日は猫の姿のまま、夕餉も食べずに休んでしまった二人
身体を動かし調子も良かったのだろう湖は、自然と早くに目覚めたのだ
だが、今は女中すら動き出していない時間だ
猫のままだった湖が起きたときには当然裸で
それは白粉も同様であり
今向かい合っている二人は、褥の上で裸なのだ
誰かが見れば、悲鳴を上げるだろう…
「ちょっと内緒話。ととさまにも、謙信さまにも内緒」
「…上で良いのか?」
上とは屋根上のことだ
佐助には見つかるだろうが…少しの時間はあるだろう
「うん。鈴の姿、借りるね」
そう言うと湖から鈴へと姿を変え、白粉も同様白猫の姿に変わっていた
そして二匹はまだ誰も起きていない時間から屋根上に上がっていくのだった
まだ空は白い靄がかかっているような日の上がる前の時間
『どうした?』
白粉に問われ、鈴の目がまっすぐ彼女に向けられると「みゃあ」と鈴の声がした
(言いたいことが一つ。聞きたい事が一つ。どっちからがいい?)
『…あまり良い予感はしないが…では、言いたいことを聞こう』
すると、湖は一度その目を閉じてから小さく息を吐く
鈴の髭がふるりと震え、少し緊張しているのが伺えた
(あのね…んっと…「お守」のお話ね)
『今回は、私に一度。信玄に二度使っていると聞いている…もしや、またお守を使ったのか?』
白粉は目を細めた
(ううんっ!ちゃんとお約束は守っているよ)
『ならば問題ない』
(問題は、回数じゃなくて……ばれちゃったの。ととさまに)
『…だろうと思ってはいた』
ついっと顔を背ける白粉に、鈴の目が見開かれる
(え…!?なんで…!?)