第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
川幅の狭い場所は橋など関係無く飛び越え
多少の崖はそのままの勢いで下ってしまう
おまけに、障害物を飛び越えてしまうのだ
「な、なんつー馬だよっ」
「あの脚力、跳躍力。小型な馬とは思えないな」
「関心してんじゃねーよ、佐助っ!っって、湖っ!それは止めろ!!危ねーって」
湖が一直線に向かっているのは、先ほど飛び越えた川より幅広い川だ
幸村の止めた声は届いている
信玄もそれには慌てて馬を近づけたのだが
だが、湖は止めないのだ
更に馬の速度を上げた、襲歩だ
(うん。いい…この子やっぱり強い)
「幸っ見ててねっ!」
「湖っ!!」
ガ…ッ
ふわっ
それは一瞬の事なのに、時間が遅くなったかのように目に映った
地を蹴る馬
馬と一体になったような湖の姿勢
見える背中からも笑みが見える
ダッ、ドガッ、ガ…ポク、ポク…
反対岸に降りた風花は、足を落ち着かないようにダガダガと土を蹴っていた
くるりと反対岸にいる四人の方を向くと湖はにっこり笑っているのだ
「見てたっ?この子すごいよ!謙信さま、風花をくれてありがとーっ私、この子すごく好き。特に癖もないし、好奇心旺盛だし、負けん気強いし、何より足がすごく強いっ!」
「風花、すごいねー」と鬣に顔を埋めると、その首を撫でる
「良い子、良い子」と興奮も冷めないでいる湖に、反対岸の彼らは呆れた顔をしながら苦笑した
「おーい。湖、こっちに戻って来いよ、そっちに行ったまんまじゃ帰れなくなるぞー」
「あれ?ととさま、私道間違えた?」
「間違えるところか、走りたい場所を進んでただろう…馬鹿猫」
「いやー…見事だよ、湖さん」
パチパチと手を打っている佐助の横にいた謙信が軽く息を吐いて湖を呼ぶ
「湖、来い」
「はーい、ちょっと待ってってくださいねー」
そう言うと馬を下がらせ、先ほど同様に軽々と飛んで来るのだ
(これは、驚きだな…馬の捌き方は以前から上手いと思っていたが…あの馬との相性が余程良いんだろう…だが、)
「湖、こら。もしかして眠くなってきてないか?」
先ほどとは変わり、ぽっくり、ぽっくり馬を歩かせている一同