第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
ぺろりと団子を二皿食べた湖は満足そうにお茶を飲む
「うんうん。湖さん、よく食べたね」
「兄さま、すごいでしょ?いっぱい食べれるようになったのよ」
「おー、お前はもっと食って肉つけろ」
「肉かぁ…私、十五になったら少しは胸とか出るのかなぁ?」
「ぶっっ!!?ゲホッ…っ」
幸村に「肉」と問われて答えれば、壮大に茶を吹き出され近くにいた湖は驚いて信玄の方へと身を寄せた
「ゆ、幸??」
「はは、安心しろ。湖、大人のお前について保証する。ちゃんと、む・・」
「馬鹿かっ!自重しろ!!あんたはっ。佐助、お前なに固まってるんだっ!妹なんだろっどーにかしろ、こいつ」
「…いやー…うん。唐突な発言に兄様驚いたー。そうゆう発言は俺たちの前では止めとこうね?湖さん」
「なんで?」
「なんでも」
少しの沈黙の後、佐助の目力に負け湖は「はい」と返事せざる得なくなった
「帰るぞ」
そして、謙信の声に反応し全員が腰を上げる
近場とは言え、夕方になれば暗くなる
まだ遠乗りになれていない湖を連れているのだ
明るいうちに帰る必要がある
「また来たいな」
「来れるさ、近いからな」
馬に跨がると、手綱を握って海を見つめる
まだ太陽は高く、春日山城に戻る頃に夕日が出るくらいだろう
全員がゆっくりと馬を歩かせていると、むずむずした様子の湖が声を上げた
「うん。競争しようっ」
「…はぁ?なに言ってんだ、お前」
「誰が一番早くおうちに帰るか、競争」
「湖さん、風花単馬じゃなきゃ言うこと聞かないんじゃ?」
「うん、そうっ。だから、先行くねっ!」
はっと、馬の腹を蹴った湖
すると、栗色の馬
風花がヒヒンっと声を上げ駆け出すのだ
「ちょ、待て!湖!!あぶねーだろーがっ!!」
瞬時に反応したのは幸村と佐助だ
謙信と信玄は、ふっと口角を上げるとゆっくりと駆けだした
「湖らしいな」
「あぁ。変わらない」
幸村と佐助も笑いながら追ってはいたが…
余裕があったのは途中まで
早駆けをさせて少し、風花と湖の調子が整ってきたのか、元から相性が良いのか
湖の手綱さばきも、風花の足もまるで羽でも生えてるかのように軽く、大人達を驚かせる