第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「ただ、でっかい娘だなぁ…と思うくらいでな。お前の許可が下りれば、登竜桜のところへ行った際に湖の年齢について交渉するつもりだ…と言うか、あそこに行くと思考をまるっと知られるな」
信玄は、謙信と白粉の許可が出れば安土の返答がなんであれ、湖を娘として迎えるつもりだ
正式には、湖の元の記憶が戻ってからになる
だが、そうなるとさすがに年齢的なものが気がかりだ
養女とするならば、せいぜい十五までだろう
「構わん。湖が望むなら…話は、それだけか?」
「いや、こっちが本題だ。以前は深く聞かなかったが…白粉のことだ。お前、土地神の地に向かった先で何を聞いた?」
それは、湖が九つの時の話だ
二ヶ月弱前の
謙信と佐助が、真夜中に登竜桜の元へ向かった時の事だ
あの時、謙信はこう聞いた「猫を生かす方法はないのか」と
答えは可能
だが、それはただの猫か、人かであればの話だ
「…母猫を延命させる方法がある」
「白粉をか…」
「だが、今のままではない。ただの猫か、人でだ」
2人の声は小さく誰の耳にも入らなかった
もちろん、部屋の中で湯浴みをしている湖にも
「…なるほどな。妖ではなくなるっわけか」
「あれの湖への情深さは見ていて解る。湖も同様だがな…だが、初めから仮初めであると宣言した。知らんのだろう…自分の延命方法など」
「おそらく考えてもいないだろうな。受け入れている…そう言っていたからなぁ」
謙信が小さく息をつき信玄を見た
「日に日に離れることを恐れているようにも見えるだろ?本人は必死に子離れしようとしているようだが…」
「湖を娘にするならば、あれはどうする」
「白粉か…あいつに関してどうこうするつもりは俺にはない。と言うより、それは俺ではないだろう?」
「…何の話だ?」
「謙信、お前…まさか、気付いていないのか?」
「だから、何の話だ」
「おいおい」と額に手を置く信玄を謙信が睨む
「……兼続だ」
「兼続がどうした?」
「あれは、どう見ても両者思い合ってるだろう…腹の内は隠しているようだが、雰囲気…視線で解るもんだ。どうやら、双方お互いの思いには気付いていない…気付かないようにしているようだがな」
「……」
驚きで目が見開いたのは謙信だ