第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
縄跳びに興味を持ったのは、この人も一緒であった
その日のうちに、湖の運動時間に縄跳びを見た謙信だ
だが、一目見ただけで三重跳びまで軽々やってしまうと
「…佐助、重さを倍にしろ」
と、指示を出した
こうして湖のナイスバディ計画(もとい体重を増やそう計画)は順調に実施され、運動した分間食も進み、そのおこぼれが喜之介に持って行かれることは少なくなった
あと五日で登竜桜の元へ行く
そんな日の夕餉の時間、兼続が遠出の許可を出した
「大変結構でございます。体つきは早々変わりませんでしたが、足や手にほどよい筋力がついておりますので、乗馬は問題ありませぬ」
結局湖は、筋肉がつき重みは少々増したものの
体型に変わりはなかった
あの食べたものは何処に消えたのかと、思うくらい必死に食べていたのだが…不思議だ
「え…っじゃあ、海行けるの?!」
「明日行く」
謙信の言葉に湖は箸を止めて喜んだ
「近場の海だから遊べる時間もあるよ」
近場の浜まで馬で半刻程度だ
駆ければ四半刻
「っ、兄さま!湖、貝とか拾いたい!あるかな?」
「どうかな。探してみようか…」
(さて、そうゆうスポットがあるか…軒猿の皆にも後で聞いてみるか…)
佐助と湖との話を耳に挟みながら、
謙信は信玄にも声をかける
「行くか?」
「そうだな。一緒に行くとしよう」
信玄が答えると、謙信は一度頷き酒を飲んだ
そして次に白粉の方を見る
「私は行かないぞ…馬に乗り、その上水溜に行くなど興味がない」
「かかさま…調子が悪いの?」
箸をお膳に置くと、湖は白粉の方に身体を向けた
「白粉殿?」
その声に兼続も声を出した
「別に。体調が悪いわけでは無い。本当に興味がないだけだ」
するっと、頬に手を当てれば湖の頬を撫でるように親指を滑らせる
「…嘘ついてない?」
「嘘など、お前についてもばれるんだろう?」
ふふっと笑う白粉に、その場にいた信玄は「ほぅ…」と一息ついた
それは、ほんのわずかの笑みであった
普通の笑み
愛おしい者を、愛おしいと見つめる純粋な笑みだ
「白粉、殿…」
「なんだ?」
兼続の方に振り向いた時には、その顔はいつも通りの涼しい顔だ
「…驚いた…お前、ずいぶんと」
幸村がその言葉を飲込んだ