第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
兼続の顔に柔らかい笑みが浮かぶ
(この二人の事もある……やはり正式に娘にするのは、時間がいるな)
湖と正式に親子になる事を、信玄はやはり悩んだ
自分の娘になることで、否応でも湖を戦に巻き込む事になるのだ
迷いがあって当然だった
更に、湖の母親 白粉の事もある
彼女は、湖が元に戻るまでの仮初めの命
そこに自分が割り込んでいいのか
今二人の間にある絆に割入る事への躊躇もあった
いつの間にか、三人の周りには人だかりが出来ており
家臣や女中らが、縄跳びについて聞いているようだった
だが、四半刻もしないうちに湖の間食が運ばれてくると人だかりもなくなり、皆それぞれの仕事に戻っていく
今回の間食は、醤油団子だ
信玄の部屋で、串に通った団子を頬張れば、隣に座った幸村が乱暴に手ぬぐいで口元を拭く
(幸は割と子煩悩だなぁ)
文句を言いながらも、世話を焼いているのだ
可愛いものだ
「湖、俺にも一つおくれ」
「ととさまも食べるの?いーよ、はい、どーぞ」
ついっと出された団子は口元にあり、にこにこした湖を見れば、このまま食べろって事だとわかる
(まったく、この娘は…)
何も言わず、そのまま団子を食べれば
「…信玄様ー、イエローカードです。そろそろ大人の対応でお願いします」
と、佐助が懐から黄色い紙を出すのだ
「なんだ?それは?」
「これは、警告行為を示す紙です。黄色い紙2枚が赤い紙1枚分で反則で、赤い紙1枚の反則紙が出たら処罰となります」
「警告と反則の基準、処罰がわからんが、仕組みは面白いな。だが、俺から言わせれば警告は然り、反則を指摘する立場の采配が悪い。適材適所で人を配置すれば良いのだからな」
信玄はそう真面目にいながら、空いてる手は湖の頬を撫でている
「なるほど。サーバントリーダーらしい発言…さすがは信玄様」
「さーばん?また変な言葉だな。っか、納得してんじゃねーよ、佐助。もっともらしいことを言ってるが、ようは湖との接触を邪魔されたくねーだけだろ」
「そーいえば…ととさま、かかさま何をあんなに怒ってたか知ってるもの?ととさま?」
「…おまえはー…覚えてない訳じゃないんだよな」
手で顔を覆う信玄は、娘の物忘れのよさにため息を溢すのであった