第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
この場を通った女中や家臣も足を止め、縄跳びの様子を立ち見していた
「で…二重跳びっ」
ひゅんっ
何度か二重跳びを飛べば、「おぉーっ」と野太い声が聞こえてくる
だが、真剣な湖の耳には入っていないようだ
「っ、もーだめっ…腕、つるっ」
はぁはぁ、と息を切らせて縄跳びを止めた時
ギャラリーの多さに目を丸くしたのは湖
そこには、縄跳びを食い入るように見ていた者湖の飛んでいた姿に驚きを隠せない者
その両者が目を丸くしていた
「お前、すげーな。なんだ、今の…」
「あ、幸もやってみる?」
持っていた帯紐を差しだそうとすれば、佐助が「大丈夫だ、湖さん」とその手を止めさせた
「みんな興味を持つと思って、実は…」
どうやって懐に入っていたんだろう?と疑問に思うような量の帯紐を出す佐助
「幸村には朱色、信玄様は猩猩色(しょうじょういろ)。兼続さんは青鈍(あおにび)、謙信様は銀鼠(ぎんねず)。ちなみに湖さんのは、赤花色だ。それぞれの身長に合わせているから使いやすいはずだ」
佐助の出した縄跳びに関心を示すのは、なにも幸村だけじゃない
見ていた女中や家臣達も興味津々なのだ
(…これは、ブームを作ってしまったかもしれない…)
日本に縄跳びが伝わったのは明治時代だ
縄跳びの歴史を知っているわけではないが、この時代にはない遊びだとは気付いていた佐助だが、湖の運動には最適だろうと用意をした
(…まぁ、遊びの一種だ。歴史を変動させるほどのものではないだろう)
別に帯び紐で無くとも、縄でも出来るのだ
名前がないだけで、縄跳び遊びは存在しているかもしれない
そんな考えも頭にあるのは、確かだった
(だが、帯紐に重さを増す為に鎖帷子(くさりかたびら)を編み込みあえて縄跳び紐を作った事は言わなくとも良いはずだ…量産もしなくていいだろう…)
「えー…これは、普通の縄でも出来ますので、皆さんもよければ試してみてください。足腰の健康にいいのですが、転倒にはくれぐれも気をつけて」
外野に向かって佐助がそう言うと、皆それぞれ頷き散っていく
残った三人、信玄、幸村、兼続は思い思いに飛び満足すると