第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
それより大事なのは…
「馬は?乗っていい?」
「残念ならがら、そこまでの成果は三日では成せませぬ」
がっかりする湖の腕を幸村が軽く持つ
「だな。この腕じゃ、手綱を持っても振り回されておしまいだ」
掴んだにの腕は、親指と人差し指で回るほどの太さしか無いのだ
「佐助殿より、湖様の「ないすばでーかりきゅらむ」の報告を受けておりまする。一刻に一度の間食、食事、その間に運動。大変よろしいと思います」
「「ないすばでえかりきゅらむ」?なんだ、それ?」
「詳しい話は、佐助殿に伺ってくだされ」
「簡単に言えば、食べたら動いて腹を空かせるって事です」
「で、運動って…こいつに何か教えるのか?お前が?」
「ん?」と幸村と視線を外さない佐助は
「幸村、俺は湖さんを忍にするつもりはないよ」
「だぁれが、んな事言った?!」
「…あぁ、早合点か?」
「よかった、よかった」と無表情の佐助の背を幸村が小突く
「じゃあ、湖は何を運動するだ?」
信玄は湖を膝に乗せたまま佐助に尋ねた
今、彼らがいるのは信玄の部屋の前だ
遅い朝餉を食べて縁側に座れば、現われたのは佐助だった
そのままそこで、信玄、幸村、佐助、兼続、湖が話し込んでいるのだ
「これです」
佐助が懐から出したのは、緑色の帯紐だった
「あ。私わかった!縄跳びでしょ?兄さま」
「ピンポーン!湖さん、大正解だ」
「「「なわとび…?」」」
「まぁ見ててください」と佐助は庭に降り、両手に帯び紐の端をそれぞれ持つと、縄跳びを始める
ひゅん、ひゅんと回しながら飛ぶのだ
「ほぉ」
「おぉ」
「帯紐をそのように…」
三人がそれぞれの表情を浮かべる中、縄跳びを止めた佐助は湖に赤い帯び紐を手渡した
「湖さん、できる?」
「うん!得意だよ」
湖の答えに満足そうに口元を緩めた佐助は、信玄から降りて庭に歩き出した湖と変わって縁側に戻ってくる
「これが、普通のでしょ…」
ひゅん、ひゅんと、回して飛んだ後
「これが、ばってん飛び」
今度は腕を交差して飛ぶ
「で、駆け足飛びに…」
紐を回す速度を速めて駆けるようにその場で飛び