第28章 桜の咲く頃 四幕(十二歳)
「……こいつが側にいることで、あんたが回復するなら、俺は何も反対しない。あんたが決めた事なら従うまでだ」
「幸、何も聞かないの?」
「…阿呆、聞いて欲しくないから「誰にも言うな」と言ったんだろう?俺は構わない。方法を知らなくても、お前がこの人を病から救ってくれるんなら…信玄様もお前も守り通すだけだ」
ふっと、信玄が笑い「生意気になったなぁ」とこぼす
湖は、「幸、ありがとう」とふわりと微笑んだ
「だが、今は此処だけに留める。謙信には、俺から話す。いいな?湖」
「うん。でも、かかさまには言ってもいい?」
「あぁ。白粉にはお前が話しておいてくれ……俺が、話したところで聞く耳があるかわからんからなぁ」
ぐぅぅー
突然聞こえた小さな腹の虫の音は、湖だ
「あ…私お腹空いてきた。朝ご飯、食べない?あれ?もうそんな時間じゃ無いかな?」
欲求に素直
腹の音にも恥ずかしさを見せないのは、やはりこどもだ
「っぷ、はは。ん?お前そう言えば少しだけ肉ついたか?」
「肉?」
「確かに…多少は重くなった?」
「?」
体重だ
湖が眠り続けていた三日間
白粉は、鈴にひたすら食事を食べさせていた
湖の細さには気付いていたが、鈴の姿を見て事の深刻さに白粉も気付いたのだ
子猫にしか見えない鈴だが、湖と同じくそろそろ大人サイズになる頃なのだ
瞳の色も青から、以前同様の金色と緑色に変わりかけている
だが、体型が伴わなかった
心配した白粉は、せっせと鈴に食事を取らせた
無理がない程度で
「白粉殿の努力の結果です。決して十分ではない微々たるものですが、少しは肉が付いてきたと、某も思います!」
信玄と湖の分の握り飯を運んできてくれた兼続が、それを教えてくれた
どうやら信玄が寝込んでいたことは、兼続は知らない様子だった
兼続が知っていれば、間違いなく信玄の調子を伺うだろう
だが、それがないのだ
(ほんと、自分の弱ってる姿見せないんだから…大人って、意地っ張り)
信玄が病魔を隠す事情を知らない湖は、大人は都合の悪いことを上手に隠す
そのくらいの認識に留めた