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【イケメン戦国】私と猫と

第28章 桜の咲く頃  四幕(十二歳)


ゆっくり願って顔を上げれば、自分の口づけした場所が淡く光る
いつもより濃い桜色の光は、黒い霧を徐々に白く染めていく

その様子を見ながら、信玄の手を握る湖
信玄は、湖の真剣な眼差しを見上げながら自分の痛みが引くのを感じていた
痛む部分を柔らかく手で包まれているような感覚だ

(これか……だから、湖は此処にすり寄ってたわけか)

痛みをあげる場所
痛む場所が解っているように、湖も鈴もそこにすり寄っていた

(まさか口づけされているとは気づかなかったが…なるほどな…眠ったように見せかけて、此処に忍び込んでいた猫は湖ってことか)

思考が動くようになれば、すっかり痛みは去っていた
黒かった靄は、薄い灰色に変わっている

「ふぅ」

掠れるような息を吐き、肩を下げた湖

(前より大きくなった…でも、色は今までで一番薄い色だ)

「…とりあえず、これで大丈夫…ととさま、嘘つきな上に、隠し事までしてたでしょ」

握っていた信玄の手を離せば

「嘘つきは認めるが、隠し事はなんのことだ?」

信玄から聞こえた口調も声も、いつも通りだ
片手を付き起き上がると、髪をかき上げ湖と向き合う
胡座をかき胸元は開かれたままだ

「具合わるかったのを」

その両膝に手を乗せ膝立ちになると湖は信玄と視線の高さを合わせた

「隠すも何も…お前達が戻った時には治っていたからな。わざわざ、教える必要はないだろう…それに、公にはしていない」
「じゃあ、なんで今回は幸村が湖を迎えに来たの?ととさまが、湖を連れてこいって言ったんでしょ」
「……発作が一時的で、またあると思ったからだ…念のため、幸に頼んでおいたまでだ…」

ぐっと、一度息を詰まらせ湖に答えれば「ほら」と、肩眉を上げる湖

「具合悪くなるってわかってたんだよね?私が治してるって気づいてたのに…言ってくれたら、こんなに酷くならなかったよ!」
「それは、お前が口を閉じ隠してきたからだ…随分と頑なだったからな。俺から何か伝える必要もないだろう…本当は、見せる事も教える事も禁じられているんだろ?隠していたのは、お互い様だろう」

湖は返答しない
が、目を逸らす事もしなかった

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