第35章 過去編:名前のない怪物
「宜しいですか、霜村監視官。被害者少女は、藤間幸三郎の双子の妹でした。先程、彼らを知る人物から証言が得られました。これで藤間を本件の重要参考人とするには十分な条件が揃ったかと。」
泉はそう言えば、先程志恩に頼んでいたDNAデータの照合を見せる。
それを見た霜村は一度咳払いをしてから泉に向き直る。
「ご苦労だったな。日向監視官。これで我々二係がようやく藤間を逮捕出来る。身柄確保は我々に任せて君達はその補佐に回ってくれ。」
「はぁ?!」
間髪入れずに佐々山が食い付く。しかし霜村はそれを意に介さず、二係の青柳監視官と神月執行官に藤間の身柄確保を命じた。青柳と神月は申し訳なさそうに三人を一瞥すると会議室を後にした。
「おい、ふざけんなよ!藤間の件は日向チャンの手柄だ!オイシイとこだけかすめ取ろうって言うのかよ!」
「かすめ取るだと?捜査本部長はこの私だ。私の指示に従え!」
「ふざけんな!むしろ捜査本部長自体を日向チャンに譲れ!」
「佐々山くん!ちょっと黙って!」
泉は後ろから佐々山を殴れば、霜村に向き直る。
「手柄はそちらで取って頂いて結構。その代わり、私は私で捜査をします。宜しいですね?」
「日向監視官。君が優秀なのは認めよう。だがこれ以上、何の捜査をするつもりだ?」
怪訝そうな目で見られ、泉はふっと笑う。
「心配しなくても霜村監視官にご迷惑は掛けませんわ。あぁ、それと。佐々山執行官を連れて行きます。その方がそちらも都合が良いでしょう?」
「――勝手にしろ!」
そう言えば、霜村は大会議室を出て行った。