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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


自分の女であるはずなのに、今目の前にいる彼女はまるで知らない人間だった。
何をどうやって問えば良いのか、今の慎也には分からなかった。
それを察したかのように、泉は笑う。

「――全部終わってからで良いわ、私のことは。」
「悪い。」

今は上手くフォローをしてやる自信が無かった。
その瞬間、慎也と泉のデバイスがけたたましい電子音をあげる。

『こちら公安局刑事課。こちら公安局刑事課。広域重要指定事件102に関連すると思われる変死体が発見された。総員直ちに捜査本部に集合せよ。繰り返す――。』

それは暁を知らせるにはあまりにも仰々しい、時の鐘だった。
3人が捜査本部に着くと、遺体発見現場へ向かった三係以外の全ての刑事たちが集結しており、大会議室では方々で彼らの怒号が飛び交っていた。

「遺体は上野動物園のチンパンジー飼育小屋で発見。遺体の様子から一連の標本事件と同一犯による犯行と見てほぼ間違いないかと!」
「遺体はプラスティネーション処理がされた上で、チンパンジー用のエサを埋め込まれていました!」
「遺体の大部分がチンパンジーに食い荒らされてます!」

混乱に沸き返る刑事達を押し退けて、3人は霜村の元へと真っ直ぐに歩みを進める。

「霜村監視官!」
「遅いぞ!何をしていた!」
「被害者少女の身元が判明しました!」
「今はそれどころじゃない!」

そう言うと霜村は拳を机に叩き付けた。けれどもそれに一番最初に反応したのは、佐々山ではなく泉だった。

「アンタがしろって言ったんでしょ!大体、偉そうにふんぞり返ってるだけで結局捜査は進展しなかったじゃない!」

霜村は助けを求めようにも喉元が詰まって声が出ない。周りの刑事達はいつも分別を弁えている泉の激昂に唖然としている。
佐々山だけが清清しそうに口笛を吹いていた。
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