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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物



「そ。お陰でこの有様ってわけよ。爺さん、こんな俺らを哀れに思うならちょっくら協力してくれねぇかな。」

佐々山の申し出に老人は黙って果実の収穫を続ける。その拒絶とも取れる様子に、三人は再び顔を見合わせた。

「一ヶ月前、身元不明の少女の惨殺死体が発見されました。私達は彼女が十年以上前にここ扇島で売春をしていた少女ではないかと踏んでいます。」

泉の問いに、センバの後ろ姿がぴくりと動く。

「十年前の少女が、つい先月、遺体で発見されたと言うのか。」
「突拍子もない話とお思いかも知れませんが、恐らく我々の読みは外れていないかと。」

センバはようやく顔を上げて、初めて泉と向き合った。

「寝た子を起こすな。こういうことわざを知っているか。」

センバの問い掛けに、三人は眉根を寄せる。センバは構わず続ける。

「世の中には触れずにいればさして害をなさない小さな『秘密』がたくさんある。ここ扇島はそんな『秘密』たちの揺りかごだ。お前たちは何故わざわざその揺りかごをひっくり返そうとするんだ。そのまま眠らせておけ。そうすれば赤子の泣き声がお前たちの耳に入ることもない。」

そう言うとセンバは黙々と葉の選定を始めた。

「生憎だけど、寝た子は起きているのよ。そうなったら私達は、それを全力で諌めるしかないの。」

どこか怒ったようにも見える泉の様子に、センバはため息を吐く。

「――アンタだって同じだろう?まだ記憶はないままか?」
「何言って――。」

慎也と佐々山には聞こえない声で、センバは言う。

「知らないままの方が幸せな事もある。少なくともあの日、アンタの『義兄』はそう判断したはずだ。」
「――?!」

その言葉に、#NAME1は一気に頭の中を色んな記憶が巡る。
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