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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


「じいさん完璧にそっちの世界からは足洗ってるらしいな。ここ最近でじいさんと話したってやつが全然いねぇ。」
「もう死んでるんじゃないか?」
「いや、一応少数の取り巻きは連れ歩いてるって話だから、死んでるんならそれなりに噂も広まるだろ。」

泉はその話を聞きながら、肉まんの残りを食べる。

「――こっちも収穫無しよ。そもそもこのエリアは居住者自体が少ないみたい。」
「だよなぁ。」
「やっぱり私が娼婦に化けてみるのがてっとり早くない?」
「絶対にダメだ。」

すごい顔で二人に睨まれ、泉は肩を竦めた。
やがて蜂が引き金となり3人は扇島の奥深くへと誘われて行った。

「こっちだ!」

勢いよく扉を開け放つと、信じられない光景が広がっていた。
煌々と光る無数の高輝度放電ランプに照らされて、植物達がその色を鮮やかにしている、ボイラーで温められた室内は春めいて、そこここでミツバチ達が花弁と花弁の間を忙しなく行き交っている。目の覚めるような一面の緑に、3人は言葉を失った。
各所で野菜や果実が実りそのみずみずしい様子は合成植物に慣れた3人の目には酷く奇特なものに映る。
呆然と立ち尽くす三人の背後で、しわがれた男性の声が響く。

「何か用か?」

慌てて振り向くとそこには、白髭をたたえ健康そうに腹を丸々とさせた老人が立っていた。

「汚れてはいるがそのスーツに官製デバイス。公安局か。」

察しの良い発言にたじろぐ。

「届出のない個人菜園は禁止されているが、大目に見てくれ。金儲けでしているわけじゃない。隠居老人の密かな楽しみだ。」
「――失礼ですが、お名前は?」

慎也の問いに、老人は目を丸くする。

「なんだ、あんたたちワシが誰か知らずにここを訪れたのか。」
「では――、やはりあなたがセンバ翁。」
「翁っていうほど枯れてるつもりはないがね。」

そう言うとセンバは丸い腹をゆさゆさと揺らした。

「安心してください。今日はあなたを取り締まりに来たわけじゃない。ある事件の捜査で――。」
「捜査!こんな場所で捜査とは!お役所仕事も楽じゃないな。」

センバが声をあげて笑えば、泉はその様子を観察する。
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