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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


「――『揺りかご事件』とは。今から14年前、大学教授である日向彰文・麗子夫妻の死体がバラバラに切断されて修道院の揺りかごで発見された事件である。だが、政府は夫妻の死を隠蔽する必要があると判断した為、公安局は本事案を広域重要指定事件へ移行。同時に外部への情報操作で、『揺りかご事件』は大学教授失踪事件へと塗り替えられたものである。夫妻の一人娘が生存していると言う噂があるが、一人娘の消息は不明。こちらについても公安局が個人情報を意図的に操作したものと思われる。」

知らなかった泉の過去に、佐々山は言葉を失う。
それはきっと開けてはいけない扉のような気がしてならなかった。














「今夜は随分と饒舌なんだね。」

揺らめく蝋燭の光を銀髪に反射させながら、槙島聖護は藤間の背中に話し掛けた。
聞き慣れた声色に安堵の笑みを浮かべながら藤間が振り返る。

「嬉しくて、ついね。」

談笑する二人の男を、瞳子は信じられない思いで見つめていた。二人の笑顔のすぐ側では、自分の父親の血にまみれた肉体が、未だ息耐えることなく蠢いているのだ。
瞳子の視線に気付いたのか、槙島の視線が瞳子のそれと邂逅する。

「彼女は?」
「僕の新しいお姫様だよ。彼の標本化が終われば、君とのお遊びもおしまいだ。僕は彼女と一緒に、また僕達だけの城をつくる。」

嬉々として語る藤間とは裏腹に、槙島は無感動に「ふーん」と答えただけだった。
瞳子は何度目かの吐き気と眩暈に襲われる。先程から滝のように浴びせられる藤間の言葉はどれも整然としているのに、その内容は何一つ瞳子の理解が及ばない。

一緒に城を作る?

瞳子の脳裏には佐々山と泉の顔だけが浮かんでいた。

「助けて、光留さん。日向、先輩。」

その声が聞こえたのか、槙島が振り返る。

「――今、なんて言ったの?」

優しく槙島が問うが、瞳子は怯えた視線を彼に向けるしか出来ない。

「彼はね、槙島聖護くん。君の持って来た写真にも、写っていたことがあったね。妹を展示するのにふさわしい方法と生贄を探し求めて街をさまよい歩いていた僕に、突然聖護くんが声をかけてきたんだ。僕が思うに、聖護君には人の殺意を嗅ぎつける不思議な能力がある。」

瞳子が喋らないのは槙島を不審に思っているからだと思ったのか藤間が嬉々として言う。
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