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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


「――悪かった。怖かっただろ?」
「ん。大丈夫。私もごめんね?」

慎也は泉を正面から抱き締めれば、優しく口付けた。

「ぶえっ――、くしっ!」

執行官ラウンジに、佐々山のくしゃみが響いた。
冬のラウンジは寒い。
どんどん下がって行く体温と共に、佐々山の頭も冷静になる。
言い過ぎだったか。
部屋に残して来た慎也の後姿がちらついて、更に体感温度が下がる。

「ま、日向チャンいるし大丈夫か。」

あの子なら上手くやってくれるだろう。
狡噛だって俺に宥められるよりも、愛しの彼女の方が数倍良いはずだ。
そう考えを巡らすが、どうにも上手く行かない。
言い過ぎだった。
執行官を辞めたいだけなら黙って退職願を出せば済む話なのに、その判断を慎也に投げた上に悪し様に罵った。

「28にもなって、なに年下に甘えてんだ、俺は。」
「見つけた、佐々山くん。」
「日向チャン。」

後ろから心地の良い声が聞こえて来る。
あぁ、やっぱ俺、日向チャンが好きなんだなぁとどこか他人のように思う。
狡噛の気を引きたかったのと同時に妬ましかったのだ。
潜在犯の自分では絶対に手に入れる事の出来ない女を手に入れている狡噛が。
なんとも情けない理由で、あんな啖呵を切ったもんだと思う。
苦笑混じりに後ろを向けば、狡噛の姿もあった。

「そんなカッコでいると、風邪引くぞ。」

そう言って狡噛がスーツのジャケットを渡して来るもんだから、思わず受け取ろうとしてハッと我に返った。

「いやっ、いい!いいよ!」
「鼻水垂れてるぞ。」
「あ?良いんだよ、別にっ。大体ヤローの上着なんか羽織れるかよきもちわりぃ。」

これ以上ここにいたら、また余計な事を喋ってしまいそうだと佐々山は慌てて席を立った。

「待て、佐々山!少しだけ時間をくれないか。」

ある意味切羽詰った慎也の様子に、佐々山はどうしたものかと泉に助けを求めるように視線を送る。
その意味を理解した泉は、苦笑混じりに言った。

「――聞いてあげてくれない?慎也も色々悩んだのよ。」

そう言われては、拒否をする事など出来なくなった。
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