第20章 未来への扉
『すげーな、って思うんだよ。
そんだけケンカしても、
またやり直したいと思えるって。』
『そうかな?』
『少なくとも俺は、今まで
そんな相手と巡りあったことは、ない。』
『そうなのか?』
『うん。そこまでして
誰かとわかりあいたいと思ったことも…
覚えてる限りはねぇな。
だから、お前ら、そういう相手同士、
出会えたことが、まずスゲーと思うよ。』
俺の右横に座ってるクロの横顔を見る。
皿の中の大根をいじる、クロ。
大人の顔だな、と思う。
昔から大人びてるヤツだったけど、
こんなに、
…静かな顔をするようになったのは
いつからだろう。
俺の視線に気付いたクロが、顔をあげる。
『夏希が電話で言ってたけどさ、』
大根のカケラを一口食べて。
『わからないんだって。』
『何が?』
『夜っ久んが、どうしたいのか。』
『俺?俺が、どうしたいか?』
『そ。』
…俺が、どうしたいか?
『夏希も、
夜っ久んにゴメンばっかり言わせるのが
申し訳ないんだって。』
『でも、
待たせたり休みがあわなかったり…
ホントに、俺が
ごめんって言うことばっかりだし…』
『多分、夏希はわかりたいんだよ、
夜っ久んのごめんの理由を。』
『理由?ちゃんと話してるよ?
…でもだいたい、
お客さんが遅くなった、か
打ち合わせが長引いた、かのどっちかだけど。
もう夏希も聞き飽きるほど聞いたはず。』
『んー、そうじゃなくてさ、
なんつーか…もっと根本的な。
大事な大事な夜っ久んが
それだけ仕事に夢中になる理由。』
『え?
結婚したいからちゃんと働きたい、
って、そんなん、当たり前じゃね?』
『そこじゃなくて。
夏希は夜っ久んのこと大好きだからさ、
気付いてるんだろな。
…仕事の話をする夜っ久んが、
すごく、楽しそうな顔してること。』
そうか?
俺、楽しそうな顔、してんのか?
だから、
仕事や早瀬に
ヤキモチ妬いてんのか?