第20章 未来への扉
一人で歩く帰り道。
目につくのは、
幸せそうなカップルばかり。
…そりゃそうだろ。
今夜はクリスマスイブだ。
イブにプロポーズするヤツは
たくさんいるだろうけどさ、
イブにケンカするヤツ、いる?
うまく、いかねーな。
好きなのに、な。
好きなだけじゃ、ダメなのかな?
部屋に帰りつく。
今夜は夏希の家に泊まるつもりだった。
部屋の空気の冷たさが
いっそう、今の自分を孤独に感じさせる。
夏希に渡された紙袋から
スーツを取りだし、片付けた。
ん?
紙袋の底に、もうひとつ、小さな紙袋。
…あ、もしかして…
包みを開く。
茶色いレザーの、
ブランドもののキーケース。
中に、鍵がひとつだけ、つけてある。
…夏希の部屋の、合鍵、だ。
そんなつもりでいてくれたんだな。
…俺、プレゼント、渡してねぇや。
鞄のなかから取り出した、赤い箱。
中は、
小さな猫のモチーフと
夏希のイニシャルを組み合わせた
セミオーダーのネックレス。
俺がつけてあげようって思ってた。
これだけつけさせて、
あとは何も身に付けさせずに…
抱こうって思ってた。
俺の、大事な、仔猫。
今ごろ、どうしてるだろ。
キッチン、片付けながら…
風呂、入りながら…
それともそのままベッドで…
泣いてる、のだろうか。
拒否されても、
抱き締めるべきだった?
もっと、強引になるべきだった?
わからない。
好きだから、
正直でいたい、
誠実でいたい、と思ってるのに
どうして、ケンカになるんだろ…
あの、プロポーズをした
カップルを思い出す。
彼の、緊張した顔。
彼女の、驚きから嬉し涙にかわっていく
スローモーションのような表情。
そのあとの、彼のホッとした顔。
彼女の、光輝くような笑顔。
プロポーズって
フツーに、あんなもんだって思ってた。
でも、あそこにたどり着くまでに
みんな、
どれだけのハードルを越えたんだろう。
俺にはまだ…というか全然…
そんな未来を夢見る資格はない。
泣かせるだけなら、
俺だって今日、彼女を泣かせた。
あのカップルとは、
全然、逆の涙だけどな。
あぁぁぁぁ…
俺も、泣きてーや…
せっかくのクリスマスにこの有り様。
俺の人生、絶賛、停滞中…