第20章 未来への扉
『あれ、お取り込み中だった?』
『超 取り込み中。最悪のタイミング!』
…それほど悪いと思ってなさそうな、
いつもの早瀬の声。
『そりゃ失礼。
いや、さっきのお客様が、
夜久君にお礼を言いたいって。
なんか、このままうちで
決めてくれるみたいだよ?』
え?
『マジ?!ちょ、電話、かわって!
…あ、夜久です。ゆっくり出来ました?
…それはよかった。いやいや、俺は…
はい、ぜひ!ありがとうございます!
最高の1日にしましょうね…
もしもし、早瀬?
今夜二人で見ながらもりあがりそうな、
ドレスとかコーディネートのパンフ、
渡してといてくれよ。
具体的な数字の話は、しなくていい。
気分優先…ん、それは今度、俺が直接、話す。
…あぁ、そこは早瀬に任せる。じゃな、お疲れ。』
よかった。小さくガッツポーズ。
『…私と話すときとは、別人だね。』
…ハッ。
目の前の夏希。
笑ってる。
のに、笑顔じゃない。
『仕事、好きなんだね。
早瀬ちゃんのことも信頼してるんだね。
じゃ、その場しのぎのこと言わないで
仕事、大事にしたらいいじゃん。』
『ごめん。』
『…てか、私が悪いよね。慣れなきゃ。』
『ごめん、って。』
『もりすけ、謝らないでよ。』
『ごめん、しかねーだろ。』
『…私のほうが、たくさん、
もりすけのこと好きなのかな?
だからバランスが悪いのかな?』
…あぁ、寂しい思い、させてる。
何でも言い合える仲。
その安心感は、時として裏目に。
俺の口からでた言葉は、
苛立ちを纏っているように響いた…と思う。
『そんなこと、言わなきゃわかんねー?
こんだけ大事だって言っても?
比べられるもんじゃねーってわかってんだろ?』
『…ごめん。』
あ。
夏希に謝らせた。
まずい。
これ、ダメだ。
『跳ね返すな、受け止めろ。』って
クロが言ってたのに、
俺、今、めいっぱい、跳ね返した。
"俺の方が好きだ"って
言うべき場面なのに。
そっと夏希の顔を見る。
あぁ、まずい。
傷ついた顔、してる。
夏希、今のは、お前は悪くない。
言葉を選び間違えた俺が悪い!
もしやこれって、
"致命傷"?!
…一年かけて築いてきた
二人のバランスが
崩れていく音がした。