第14章 祝福の拍手
初めて、
俺から早瀬さんを呼び出した。
もし、今日の話がうまくいかなければ
もう、彼女と二人で会うことは、ない。
そんな気持ちで、
初めて二人で出掛けた時と同じように
夜の海岸線を車で走る。
『…何か、あったの?』
『俺、今、烏養さんと話してきた。』
『…え?』
『勝手に、ごめん。』
『…知ってたの?』
『見てたら、気付いちゃったよ。
俺、早瀬さんのこと、好きだから。』
『…』
『本当は、
二人がやり直してくれたらいいって思って
話しに行ったんだ。
でも…二人とも相当な思いで
別れを選んだんだってことが、わかった。』
『…』
『烏養さんにも、ちゃんと言ってきたよ。
烏養さんが早瀬さんを…手放すなら…
俺が告白しますよ、って。』
『…ケイ君は、なんて?』
初めて知った。
ケイ君、って、呼んでたんだな…
『早瀬を頼む、って。』
彼女が向こうを向いたのがわかる。
多分、傷ついた顔をしてる。
でも、
ここで、話を止めるわけにはいかない。
『烏養さんから、早瀬さんに伝言があるんだ。』
『…なに?』
車を停める。
偶然だけど、
ここ、初めて彼女を抱いた時の
あの駐車スペースだ。
あのときから事態は大きく変わった。
もう、
ドキドキしてパニクってた俺じゃない。
今、俺は大事な言葉を預かってる。
ちゃんと、伝えなきゃ。
烏養さんの、大事な想いだから。
『早く、幸せになれって。
早瀬さんが幸せになってからじゃないと
烏養さんも次に進めないから…
あんまり俺を待たせるな、
早く幸せな報告しに来い、って。』
『…』
『ほ、ほんとだよ。
ホントに、烏養さんがそうやって…』
『うん。そういう人だって、知ってる…』
…沈黙が流れる。
でも、これは意味のある沈黙だ。
心を整理するために、必要な、沈黙。
『山口君、あのさ、』
『ん?』
『とりあえず、少し、泣きたい。』
『…好きなだけ、泣いて。』
"泣けない"と言っていた彼女の涙。
コロリと落ちた雫は、
ハラハラと続き、
そして大粒にかわる。
見守っていた俺だけど、
つい、抱き締めてしまった。
突き放されるかな、と、一瞬思ったけど、
予想外に
彼女は小さく俺の腕の中に収まる。
そして、
震えながら、泣き続けた。