第116章 手が届かないよりも、手の届くのに触れられない方が辛い。
ちなみに先程妙に投げ飛ばされてのびてしまっていた近藤だが、目が覚めた時には自分の部屋で寝かされていた。新八と山崎が近藤の宿泊部屋へと運んだのである。
何故自分が自室で寝ているのか、状況を知りえない近藤は妙の事が気になり、この場へと戻って来たらしい。まぁ残念ながら、妙はさっさと自室へと帰ってしまっていたのだが。
旧館内を妙を探して駆け回っていた近藤は、たまたま葵咲達の話す現場へと居合わせたのである。
近藤は腕組みし、葵咲達の方へと目を向けながら言葉を零す。
近藤「…俺としちゃ松本先生にも幸せになって欲しいんだがな。」
松本「そうなると貴方の大切な親友が哀しむ事になりますよ。」
松本の指し示す“大事な親友”が誰の事なのか。勿論近藤は分かっている。近藤は大きなため息を吐いて目を瞑った。
近藤「人の世は難しいな。」
松本「近藤さんは人が良すぎます。」
近藤「フッ。」
呆れたような笑みを零す近藤につられて松本も呆れ眼。少しの沈黙がその場に降り、松本はいつもの澄んだ表情に戻して前を見据えながら言った。
松本「…そういう意味では、牢獄の方が良かったかもしれませんね。」
近藤「?」
頭に疑問符を浮かべる近藤。近藤は松本の方へと視線を移して次の言葉を待つ。松本は葵咲達の方に向けていた視線を床へと落とし、少し辛そうな顔を浮かべた。
松本「手の届く範囲にいるのに手が届かない高嶺の花。生き地獄のようですよ。まぁこれが、神が私に与えた罰なのかもしれませんが。」
牢に入れられていたのなら諦めもつく。自分には手の届かない人なのだと。だがこうしていつも話せる程近くにいるのに届かない。蛇の生殺し状態とも言える今の状況は諦めたくても諦めきれず、その事は何よりも辛いもの。まるで拷問を受けているかのようだ。