第116章 手が届かないよりも、手の届くのに触れられない方が辛い。
松本「今、葵咲さんの頭の中に浮かんだ顔があるでしょう?それが、貴女の好きな人ですよ。」
葵咲「っ!!」
言われて頭に浮かぶのは・・・・土方の顔。
葵咲は顔を真っ赤にして口を真一文字に結ぶ。松本はフッと息を漏らして葵咲に促した。
松本「その素直な気持ち、その方に伝えてみてはどうです?」
葵咲「!」
松本の言葉を受け止め、目を見開く葵咲。自分の気持ちを素直に…。その未来を想像してみた。だが葵咲は明るい表情を浮かべるのではなく、表情を落とし、眉根を寄せて俯く。
葵咲「…でも、私は・・・・。」
言葉を詰まらせる葵咲。そんな葵咲を見て松本も少し眉根を寄せて言葉を返す。
松本「・・・・“高杉晋助”、ですか?」
葵咲「!? な、なんで…っ!」
松本の口から高杉の名が出てくるとは思ってもみなかった。葵咲の鼓動は脈打ち、どんどん心拍数は上がってゆく。青ざめる葵咲を前にしながらも松本が動じる事はなかった。松本は葵咲をじっと見据えながら言葉を続ける。
松本「彼は単なる“幼馴染”、ではないですね?」
葵咲「・・・・っ。」
まるで全ての事情を知っているかのように、見透かすような松本に、葵咲は言葉を失う。そして観念したように俯き、静かに言葉を押し出した。
葵咲「…高杉は…。…晋助は・・・・。」
スッ。
質問に答えようとする葵咲の口元に、松本はそっと人差し指を添える。その事で葵咲は瞳を大きくしてパッと顔を上げた。
葵咲「!」
葵咲が松本の目を見ると、松本は首を横に振って優しい表情で言葉を返す。
松本「それは今 私に言う必要はありません。“彼”に対しても、敢えて言う必要はないと、私は思います。」
葵咲「え?」