第116章 手が届かないよりも、手の届くのに触れられない方が辛い。
鐵の二人が立ち去った事で館内のスタンド達は、たちまち大人しくなった。その事に気付いた葵咲は顔を上げて辺りを見回す。
葵咲「心なしかスタンド達が大人しくなったような…。」
松本「残念ですよね…。」
(葵咲:ホントに好きなんだなぁ…。)
心底ガッカリしたように肩を落とす松本。先程までのおどろおどろしい雰囲気の方がお気に召していた様子。正真正銘、根っからのホラー好きらしい。
スタンド達も落ち着き、玄関口(出口)へと近付く二人。玄関付近ではそういう演出になっているのか、人魂がポウッ、ポウッと一つ、また一つと灯されていき、怖かった風景は幻想的なものへと変わる。葵咲はそんな景色に思わず見惚れた。そして先程の松本を気遣うように葵咲が話題を切り替えて言葉を掛けた。
葵咲「そういえば短英さん、さっき一郎君は女性達を救う為に動いてたって言ってましたけど、短英さんもそうですよね。」
松本「え?」
唐突に振られた話題に松本は目を丸くする。葵咲が何の件について、そう話しているかが分からず思考が停止してしまったようだ。葵咲はその事について詳しく語り始める。
葵咲「この間病院の前で、華月楼で会った(あの時の)女性に会いました。臨月って聞きましたけど。」
松本「ああ、彼女に。」
病院の前で会った臨月の女性というワードで松本は誰の事かすぐに分かった。頷く松本を見て葵咲はそのまま話を続けた。
葵咲「あの方を華月楼から追い出そうとしたのは、彼女が本当に短英さんの事を慕っていたから、ですよね。」
松本「!」
葵咲「上辺だけじゃなく、心から慕っていた。そんな彼女を裏切れば…彼女は信じた人に二度も突き放された事から立ち直れなくなるかもしれない。だから…状況を利用して追い出すような形にしたんですよね。」
葵咲のその言葉だけで松本は葵咲が彼女から詳しい身の上話を聞いたのだと察する。そして松本は目を瞑り、微笑を浮かべて言葉を返した。
松本「…さぁ、どうでしょう。」
葵咲「フフッ。」
葵咲の指摘を肯定するでも否定するでもない松本だったが、その素振りを見て葵咲はそれを肯定だと捉えた。形は違えど、松本も一郎兵衛と同じく華月楼へと訪れた女性達を護ろうとしていた。その事に葵咲の胸は温かくなる。