第23章 ・隠れていたもの
「文緒、」
次の言葉は無意識に出た。
「愛している。」
若利の側からは見えなかったが文緒は目を見開いていた。
「え、え。」
「聞こえなかったのか。」
「聞こえております。ただ、その」
「何だ。」
「急すぎてびっくりしています。」
「そうか。」
若利は目を伏せる。
「何故だろうな。ふとそう思った。」
「そこからそのまま仰るのが兄様らしいです。」
「言わねば伝わらん。」
「それは確かに。」
「お前ははっきりと俺を慕っていると言った。なのに俺が何も言わないのは妙だろう。」
「律儀ですね。」
「いや」
若利は正直に言った。
「自覚するまでが遅かった。」
そう、今日やっとわかった。何故文緒に側にいてほしいと望むのか、何故他校の奴が文緒に接触するのが気に入らないのか。チームの他の連中はいち早く気がついていて、だから瀬見も溺愛レベルと言っていたのだろう。
「遅すぎたか。」
呟く若利に文緒がいいえと答えた。
「思うよりは早いです、兄様。」
「どう思っていた。」
「年単位の時間がかかるかもと思っておりました。」
「そうか。」
天然丸出しの文緒から超鈍感と言われているも同然なのに突っ込まない辺りが若利クオリティである。そうやってしばらく若利は文緒を離そうとしなかった。母も祖母も見ていなかったのは幸いである。