第23章 ・隠れていたもの
「文緒っ、避(よ)け」
避けろと言いかけたのに義妹は避けずに拾った。バシィッと音が響く。
「あ、ぐ。」
次に響いたのは文緒の呻き声とドサッと尻餅をつく音だ。若利は内心慌てて義妹の側に駆け寄った。
「大事ないか。」
すっ飛んできたボールを片手で受けながら若利は尋ねる。
「多分。」
「何故避けなかった。」
「これも訓練と思いました。」
「融通がきかないのか。」
「申し訳ありません。」
「腕は。」
「別に。」
「正直に言え。」
「痛いです、兄様。」
「すまん、少し力んだ。」
「構いません兄様、これくらいで慣れておけばきっと授業でも怖いもの無しです。」
「いずれにしても見せろ。」
「はい。」
文緒はおとなしく若利に従った。
幸い大事はなさそうだが文緒が明らかに消耗してきた為、2人は一度休憩を取った。
「なかなか難しいものですね。」
縁側に座り、水分を補給しながら文緒が言う。
「ただでさえ私は不器用なのに授業の短い間ではうまくいかない訳です。」
「先も言ったがお前は飲み込みが早い。うまく行かないのは余計な思い込みのせいに思える。」
「そうでしょうか。」
「あるいは焦りか。」
「それはあるかもしれません。」
「焦る必要はない。少なくともお前の場合は。無茶をしたのはいただけないがあれを受けられるとは思わなかった。」
「兄様、何だか今日は嬉しそうに見えます。」
「そうか。」
若利は自分も水分を補給しながら思う。特に深く考えていなかったが違うとは言えない。バレーボールの話をすると喜んで聞いてくれるものの自分からは触れようとしなかった義妹とこうしてバレーボールに触れている。何か熱いものを感じるのは確かだった。
「確かにそうかもしれない。」
若利は呟いた。
「ほんの少しだがお前とこうしてバレーボールをするとは思わなかった。」
「兄様。」
「少し懐かしい気もする。」
「といいますと。」
「いや何でもない。」
「そうですか。」
こういう時には踏み込まない文緒は流石かもしれない。若利は話を変える。