第23章 ・隠れていたもの
その日の夜、牛島若利は義妹から思わぬ依頼を受けていた。
「兄様、バレーボールのレシーブを教えてください。」
顔にこそ出ないが若利は驚いた。義妹は片頬に湿布を貼っておりしかも苦手な運動をわざわざやろうとしている。
「突然どうした。」
思わず尋ねると文緒は答えた。
「今、うちのクラスは体育の授業がバレーボールなのですが試合をしたら一緒の授業に出ている隣のクラスのチームに狙い撃ちにされました。」
「守備が薄い所を狙うのは当然だろう。」
「兄様ならそう仰ると思いました。その点は私も理解しています、問題はそっちではありません。」
「何が問題だ。」
「向こうが顔に当ててきました。笑ってたのであれは絶対わざとです。おかげでご覧の有様です。」
「そうか。」
「馬鹿にされているのが腹に据えかねます。」
言う文緒の顔と声からは珍しく闘争心らしきものを感じる。
「何もできまいと図に乗られている節もあるのでせめて打たれても拾ってやりたいです。」
若利はほぅと感心した。若利や慣れた相手には割と物を言うようになった一方やはり基本は大人しい文緒からそういった言葉を聞けるとは思わなかった。
「少しなら良いだろう。」
「ありがとうございます、兄様。」
そうして次の休みの日、家の庭にて義兄妹は初めて2人でバレーボールをしていた。
「いたた。」
「立て。もう一度やってみろ。」
「はい、兄様。」
「心配はいらない。お前なら出来る。」
「そうでしょうか。」
「飲み込みが早い。」
若利は事実を言ったまでだが文緒は嬉しそうにする。
「行くぞ。」
「はいっ。」
一生懸命レシーブをしようとして動く文緒を見てふと若利は昔の事を思い出す。あの時自分は今よりずっと幼くてボールを返した先にいたのは
「兄様。」
不思議そうに呼ぶ文緒の声に若利はハッとした。
「どうかされましたか。」
「何でもない。それよりもう一度だ。」
「はいっ。」
気合の入った文緒の返事につい呼応してしまったのかもしれない。
「しまったっ。」
流石の若利も声を上げた。手加減が足りない、放ったボールの勢いが強すぎる。文緒は律儀にも拾いに突っ込んで来るが当たればかなりの痛手になるのは間違いない。