My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
「そうやって呼んでくれるだけでいい。それだけで、僕は進めます」
何も知らない雪さんに、14番目のことは言えないから。代わりにそう頼み込めば、雪さんは何も聞かずに笑ってくれた。
「わかった。ちゃんと呼ぶよ、アレンのこと」
当たり前のように頷いてくれる雪さんに、ローマで温かい言葉を貰った時と同じ。心を包まれる感覚。
「ありがとう」
そんな雪さんに、もう一度感謝の言葉を込めて贈る。誰かの為じゃなく、自分自身の笑顔で。
するとまじまじとそんな僕を見た雪さんの顔が、自然と砕けた。
…うん、やっぱり雪さんにはそうして笑っていて欲しいと思う。
「雪さんも、何かあったら遠慮なく言って下さいね」
「ん?」
「神田に暴力振るわれた時とか。いくら恋人だからって、乱暴するのは男として失格です」
ね、と言葉を付け足せば、みるみるうちに雪さんの顔が……あれ、真っ青になった。
「そ、そのことなんだけどアレン…なんで気付いたの…というか、いつから気付いてたの…」
そのこと?
…ああ、神田とのことかな?
「ええと…ローマでの任務の時かな」
「!?」
神田との仲がはっきり確信に変わったのは、あの任務の時だから。
だって初めて見たんだ。神田が笑った顔。
AKUMAとの戦闘でよく見せる挑発的な笑みじゃなく、相手を思いやって浮かべている笑顔。
『大丈夫だ。死んだり、しない』
満面の笑みなんかじゃなかったけど。
微かなものだったけれど。
それは真っ直ぐ雪さんに向けられていた。
神田が深手を負ってしまって泣きそうな顔をしていた雪さんに、心配するなと、優しい言葉を向けていた。
普段誰かを気遣ったりしない神田だからわかる。
それだけ特別な思いがあるから、できたことなんだって。
それを思い出すように呟けば、雪さんの顔は更に驚愕のものへと変わった。
うわあ…凄い驚いてる。
言わない方がよかったかな。
「まさか……あれ…見た、の?」
あれ?