My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
僕の頬に当てたその手は大人しく、逃げる素振りは見せなかった。
「心配させちゃってごめんなさい」
「そんなこと…」
「でも嬉しかったです。雪さんの言葉」
目を瞑って、その温かさに浸る。
一呼吸置いて、もう一度口を開いた。
「…辛くないって言えば嘘になります。でもこうして僕が守りたいものを、実感できているから。…それが僕に力をくれるんです」
言葉にするのが下手だからと、以前雪さんは言っていた。
そんな彼女が絞り出すように一生懸命、僕に声をかけてくれたから。
そんな些細な彼女の行動一つが、僕に力をくれる。
そんな彼女やこの教団の皆を、守りたいと強く思える。
…師匠やコムイさん達の前でも誓ったんだ。
僕は僕、アレン・ウォーカーだ。
マナが"愛してる"と言葉を向けてくれたのは、僕じゃないかもしれない。
マナは14番目と血の分けた兄弟だと、師匠は言っていた。
マナが僕を傍に置いてくれたのは、愛してくれたのは。僕が14番目の宿主だったからかもしれない。
……それでも。
"立ち止まるな。歩き続けろ"
今でもその言葉は僕の胸の内にあるよ、マナ。
「雪さん…僕の名前、呼んでくれますか」
「…アレン?」
ゆっくりと目を開く。
きょとんとした顔で不思議そうに名を呼ぶ雪さんの顔が、近くにあって。
「…アレン」
もう一度。
今度ははっきりと、僕の名を紡いでくれた。
〝アレン〟
それはマナが僕に授けてくれた名前。
授けると言うには、少し違うのかもしれないけど…あの時のマナは色んなアレンがごっちゃになってたから。
でもそれは確かにマナから貰ったものだから。
「はい」
僕は僕。アレン・ウォーカーとして生きていく。
14番目なんかにはならない。