My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
「アレンが吐き出して楽になれるなら、私でよければなんだって聞くから。…辛い時は辛いって言っていいんだよ」
手首を握っていた手が、そっと離れる。
代わりにその手は気遣うように、優しく僕の左腕に触れた。
リンクのことじゃない。
今僕が立っているこの場で鏡のような窓に映る、黒い影。
付き纏う"14番目"の不安。
それを吐き出したくなって、目の前の雪さんに縋りたくなって──…気付けば腕に触れたその手を、握っていた。
「アレン?」
軽く引けば、不思議そうにしながらも傍に歩み寄ってくれる。
すぐ目の前にある体は、簡単に腕に閉じ込められる距離にある。
手首を掴まれて感じた人の温もり。
それはなんだか泣きたくなる温かさで、それを実感したくて…それを抱きしめたくなった。
でも駄目だ。
「…ありがとう」
雪さんに余計なことを言って、これ以上心配させたくないし…それに彼女は僕のものじゃない。
………神田のものだから。
「…もう少し早く、捕まえていればよかったな」
「捕まえる…?」
この感情が恋愛感情なのかと聞かれたら、わからない。
だけどこうして誰かのものになってしまった雪さんを見ると、少しだけ寂しくなる。
………相手があのパッツン馬鹿だってことも大きな要因なんだろうけど。
「いいえ、こっちの話です」
抱きしめることはできない。
だからせめてもと、引き寄せたその手を自分の頬に当てた。
温かい、人の温もり。