My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
「…アレン…?」
心配そうに呼びかけてくる雪さんに、思った以上に暗い声で呟いてしまっていたことに気付いてはっとした。
いけない。
「ごめんなさい、なんでもないです」
慌てて目の前で軽く手を振る。
そのまま一歩後退って、いつものように笑った。
「あ」
「え?」
すると、ぱしりと手首に微かな抵抗。
見れば雪さんの手が僕の手首をしっかりと握っていた。
まるで引き止めるように。
「ぁ……え、と…」
握ってから、考えるように迷う声を漏らす。
そんな雪さんの手を振り払う訳にもいかず、後退ろうとした足は止まった。
「雪さん?」
「…うん、と…」
迷うように口を開いて、言葉にならないのか、また口を閉じる。
だけどその手はしっかりと僕の手首を掴んだまま、放そうとしない。
そんな雪さんの行動は初めてで、正直戸惑ってしまった。
なんだろう。
「…アレン、」
「はい?」
「…上手く、言えないんだけど……辛い時はね、辛いって言っていいんだよ」
え?
「この言葉は受け売りなんだけど…私もこの言葉に救われたから」
誰の受け売りなんだろう、とは思わなかった。
それ以上に、目の前の雪さんの存在に意識を奪われたから。
「アレンはいつも笑うから。私と似てるけど…私とは違う。皆の為に笑ってくれるから。…それはアレンの優しさだけど…偶には我儘になったっていいよ」
言葉を選ぶように、ゆっくりと紡がれる声。
迷うように逸らされる目は、一生懸命言葉を探しているようにも見えた。
…ああ、やっぱり。
雪さんの言葉は、いつも大事な時には不思議と真っ直ぐに届く。
…なんでだろう。