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My important place【D.Gray-man】

第38章 幾哀心



「何処行ってたんだ、ティム」

「あ、怒らないであげて。食堂の食器棚で尻尾挟まれてて、動けなくなってたみたいなの」


 ギザギザの歯を見せながら手の甲に乗るティムについ声を上げれば、名前を呼んでくれた声と同じ音色が間に入り込む。
 声の主を探せば、その人はすぐ傍にいた。
 さっきまで頭に思い浮かべていた人。

 雪さんだった。


「職場に向かう途中で見つけて…それより大丈夫? 具合でも悪い?」

「え?…なんで、ですか?」

「や、なんか遠目にそう見えたから…そうじゃなかったらいいんだけど」


 ああ、駄目だな。
 こんな誰が通るかもわからない廊下で、つい塞ぎ込んでしまってた。
 そんな自分に後悔しつつ、心配そうに見てくる雪さんに笑顔を返す。


「大丈夫です、ちょっとお腹減っちゃって。ティムのことありがとうございます」


 そう言えば、雪さんは安心したようにすぐに砕けた笑みを見せてくれた。


「アレンらしいね」


 初めて僕の心に引っ掛かった、あの儚い哀しそうな笑みじゃない。
 柔らかい優しい笑み。

 …この笑顔もそうだ。
 僕が守りたいものの一つ。


「食堂はあっちだよ。…ってあれ、リンクさんは?」

「リンク?」


 言われて気付く。
 そういえばリンクの姿がない。


「あ…」

「…またティム捜しで逸れちゃったとか…?」

「…みたいです」


 見つかったらまた怒られそうだなぁ…。


「アレンてちょくちょくリンクさんと逸れるよね。前に街へ買い物に付き合ってくれた時もそうだったし」

「…そんなこともありましたね」


 そういえば。
 任務帰りに街に下りる雪さんを見かけたから、ジャスデビのこともあって心配でついていった。
 慌てて一緒に行ったから、ついリンクのことを置いていってしまって。
 …あの後、凄く怒られたっけ。


「あんまり心配かけないようにね」


 苦笑混じりに忠告してくれる雪さんに、そうですねと笑顔で返すつもりだった。


「…リンクの場合、僕の心配じゃなく監視の心配だと思いますよ」


 …なのに、なんでそんな言葉を吐き出してしまったのか。
 師匠の言葉が、まだ僕の心に暗く尾を引いていたのかもしれない。

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