My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
「……」
「ラビ」
「あ、いたんさジジイ」
ザシュッ
「いってェ!?」
じっと雪が去っていった方を見ていたら名前を呼ばれた。
見れば向かいの席で飯を食うジジイの姿があって、そういやいたっけと今更気付く。
途端、頭に鋭い斬り裂くような鉄拳が落ちてきた。
その爪付いたパンダ手袋で殴ってくんのやめてくんねぇ!?
血ィ出るから、血!
〖馬鹿モンが。教団の人間にうつつなど抜かすでないわ。我らはブックマンなのだぞ〗
「…チッ、わかってるようっせーな」
殴られた頭を押さえたまま、声を静める。
淡々と忠告してくるジジイに反論する気なんてない。
オレはブックマンJr.。
雪やユウ達、この教団の人間はオレにとっては聖戦を記録する為の"情報"にしか過ぎない。
ズキッ
そう自分に言い聞かせると胸の奥が小さく痛んだ気がして、ぐしゃりと頭を掴む手に力を入れた。
ズキってすんな、オレ。
〖それで、最近の小僧の様子はどうだ〗
〖ああ…特に変わらずさ。アレンはいつも通り〗
"言語"を変えてオレにしかわからない言葉で尋ねてくるジジイに、同じ言葉で返す。
周りの人間に余計な情報を漏らさないが為の、これはブックマン一族だけが扱える言葉。
ジジイが気にかけてるのはアレンのことじゃない。
アレンの中に宿る"14番目"のメモリーのこと。
…そういや前に雪がやけにノアのことを聞いてくるから、まさかアレンのノア事情を知ったんじゃねぇかって勘繰ったけど。
ぽかんとした顔で反応してたところ、あれは何も知らない身だった。
だからそれ以上聞くのはやめたけど…なんであんなにノアのこと知りたがってたのか。
仕事には真面目に取り組む性格だけど、雪に正義感なんてもんは似合わねぇ気がするし…。
教団で血みどろな実験を強制させられてたんさ。
そんな教団の為に誠意を込めて身を捧げられるのは、余程の信者か聖者か。
そして雪はオレから見れば、そのどちらでもない。