My important place【D.Gray-man】
第38章 幾哀心
「……」
すぅ、と頭が冴えるように意識が浮上する。
静かに目を開けて映るのは、見慣れた自室。
無機質な壁にかけた、団服と六幻。
その横には必要最低限の家具だけ。
カーテンが取り付けられた窓の隙間からは、まだ朝日は漏れていない。
薄暗い早朝に、慣れた体はいつも目が覚める。
この後は早朝トレーニングを本部裏の森でやって、それから食堂──
「…?」
もそりと微かな気配。
その気配を辿るように目線を下に向ければ、すぐに理解できた。
…ああ、そういやそうだった。
「すー…」
俺の胸にぴたりと寄り添うようにして、すやすやと眠っている人物が一人。
体を丸める癖はまだ抜けてないが、何度もこうして寝る度に腕に閉じ込めていれば、自然と隅に寄る癖は少なくなった。
もう捕まえていなくても、自分から寄り添って寝ている姿に自然と微かな笑みが浮かぶ。
その些細な行動や存在が、俺の心を包む。
…確かに"愛おしい"と思える気持ち。
「……」
そしてそんな想いを…俺は知っている。
"──…待ってる"
最後に聞いたあの人の言葉は"約束"を交わしたもの。
あれは、何年…何十年前のものなのか。
俺にはわからない。
残された朧気な記憶の中では、少ない言葉を交わした出来事しか憶えていない。
それでも捨て去れなかった。
あの人に会いたいと思う気持ちは強く、俺の壊れた記憶に残されたまま。
…きっと記憶の俺が死ぬ前に、最も強く望んだものだったからだ。
記憶の俺が、愛した人だから。